宇宙に行くのは人類が生き続けるため
人間が宇宙人に遭遇するよりも、地球人が滅ぶほうが早いかも――冗談ではなく、私はそう思っています。太陽の寿命が尽きるとき、あるいは地球に住めなくなっても人類が存続するためには宇宙に行かなければなりません。
私はこれまで、世界15カ国の政府主導で進められてきている国際宇宙ステーション(ISS)計画(※1)で有人宇宙活動の仕事をしてきました。現在、米国アクシオム・スペースで有人宇宙活動の仕事に携わっています。これまでの各国の国際協力で進められてきたISSなどによる地球低軌道の利用は基本的に研究や技術開発が主たる目的でした。宇宙の微小重力環境が材料科学や生命科学の分野でどのような影響を及ぼすかなど、新たな知見を獲得する優れた成果が創出されてきていますが、微小重力環境を利用して地球低軌道を経済活動の場にすることは第一の目的ではありませんでした。
ISSでは創薬、光ファイバーや半導体用の材料科学の分野の成果が生まれてきました。例えば立体臓器は、地上の重力環境下だとつぶれてしまう毛細血管が、微小重力環境では形状を維持した状態で製造できる利点があります。GPS同様、こうした地上の生活を豊かにするための宇宙利用はこれからさらに加速していくでしょう。インターネットの普及が我々の生活を大きく変えたように、メイド・イン・スペースの製品が日常生活に欠かせないものになる――いま私たちは、その変曲点にいるのだと思います。
これからは、民間が担えるところは民間が主導することで、量産によるコストパフォーマンスの向上のみならず、宇宙飛行の安全性向上に寄与できる部分もあると思います。経済活動の主戦場は、輸送コストの点から、まず地球低軌道を経済活動の場として確立することが、将来の地球低軌道以遠の有人宇宙活動の経済性を占ううえでも重要な試金石になると思います。
宇宙で生まれた技術がもっと多くの人に使われ、もっと多くの人に宇宙へ行ってほしい――そんな思いで、民間への転身を決意しました。
新しい領域を切り拓く挑戦には「想定外」の出来事と失敗が必ずついてまわるものです。想定外の出来事から、失敗と学びが生まれ、失敗を恐れず挑み、そこから学ぶ。このサイクルが科学技術の発展には不可欠です。
自律飛行できるのになぜ宇宙飛行士が必要か
この「失敗する」ことがどれほど重要か。私も委員として参加したアラブ首長国連邦(UAE)宇宙機関の諮問委員会で、ロケット技術者でヨーロッパ宇宙機関の元長官が、宇宙新興国であるUAE宇宙機関に対し、「ロケット等の開発計画の中にあらかじめ一定頻度の失敗を考慮しておくことが計画全体のコストとスケジュール管理のために効率的だ」という趣旨の助言をされていたのは印象的でした。重要なのは「失敗しない」のではなく、「ミッションを達成」するためのコストとスケジュール全体を考慮した開発計画であるということで、まさにスペースX(※2)の開発プロセスにも見ることができる手法だと感じます。
私は5回目の宇宙飛行で、スペースXのクルードラゴンでISSを往復しました。クルードラゴンは、同社のファルコン9ロケットで打ち上げられ、最大7人が搭乗できる宇宙船です。打ち上げからISSへのドッキング、地球への帰還に至る一連の運用を基本的に全自動で遂行できます。ただし、火災や急減圧などの緊急事態にはクルーの手動操作が必要になります。スペースXには「失敗」を恐れず、成功につなげることを実現する風土が根付いていると感じます。カリフォルニア州ホーソーンにある、スペースXの訓練所で訓練を重ねるなかで、民間のスタートアップ企業ならではのスピード感と、「失敗は許容するが、失敗から確実に学ぶ」という姿勢を肌身で感じてきました。
私も「失敗してはいけない」、失敗しないこと自体を目標にする風土で過ごしてきたように思います。しかし本当の目標はミッションを成功させることであって、失敗は、そこに至る手段の一つでしかありません。もちろん人命に関わるような安全管理に妥協は許されませんが、失敗とは、私たちの知らない未踏の領域を切り拓くうえで欠かせないプロセスなのです。
地球上での様々な日常生活の場面と同様に、有人宇宙活動においても、自動化・自律化の技術は日進月歩です。それにより、どうしても人間が担わなければならない運用の領域が狭まっているのは事実です。AIは、ビッグデータに基づいて精度を高め、成功の確率を最大化してくれる素晴らしいツールで、様々な人間の仕事も楽にしてくれます。ただ、「想定外」の緊急事態への対応や、データベースに依存できないような人類が生き延びるための究極的な判断は、AIを活用するとともに生身の人間に委ねられるべき事項だと思っています。AIが優れている部分がある一方、AIを利用する範囲を定めるのは人間です。米国連邦航空規則において、機長とは、「航空機の運航に対して直接的な責任を負い、その運航に関する最終的な権限を持つ者」と定義されていますが、科学技術の利用に関する究極的な権限に関してはこの「機長」が我々「人間」でなければならないと思います。
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