東京23区でさえ立地を間違えれば損する

首都圏の新築マンションの平均価格が1億円台で推移し、中古マンションも上昇基調が続くなか、「いま買うべきなのか、待つべきなのか」、そう感じる人も少なくないだろう。こうした状況下、どのような考え方でマンション購入に向き合うべきだろうか。

私の考えは、「手元に一定の自己資金があり、株式投資などを積極的に行うつもりはないが、住まいを確保しながら資産形成をしたいと考えるなら、無理のない範囲でいま購入してもよい」というものである。その理由は、日本では当面インフレ傾向が続く可能性が高いと考えているからだ。

インフレは日本国内で見ると、円安のときに起こりやすい。筆者はこうした円安構造が当面続くと考えており、それゆえに、日本ではインフレが定着しつつあると考えている。日本は、人口減少や低成長に加え、巨額の政府債務を抱えているため、欧米のように高金利政策を長期間続けにくい。

一方、米国は高い成長力とインフレ率を背景に、比較的高い金利を維持しやすい。結果として、日米の金利差は埋まりにくく、円安、インフレにつながりやすい。日本は以前のような「円高・デフレ」の時代に戻るよりも、「円安・インフレ」の環境が続きやすい構造へ変わりつつある可能性がある。

インフレ環境下では、不動産も平均的には価格上昇圧力を受けやすい。東京都の公示地価と為替の長期推移を重ねると、バブル崩壊後の公示地価の値動きは為替よりも緩やかではあるものの、類似した動きを示しており、その傾向は読み取りやすい。したがって、投資に自信がない人にとって、住まいを購入することは資産防衛の有力な選択肢になりうる。ただし、これは「どの不動産でも買ってもよい」という意味ではない。現在は、どこを買うかによって将来の資産価値に大きな差が生じる時代になっている。というのも、不動産価格は平均では語れなくなっているからだ。

人口密度の違いによって、価格上昇率に差が生じてきているのだ。日本銀行もこれを指摘している。また、東京23区内の中古マンションにおける、最寄り駅からの徒歩分数の違いによる価格変化率を調べたところ、徒歩7分以内の場合は1分遠くなるごとに1.4%程度の価格下落率が概ね定着しているが、徒歩7分を超える場合、2015年にはマイナス1.8%程度だったものが徐々に低下し、25年にはマイナス2.3%となっている。このことは、東京23区のように人口密度が高い地域であっても、利便性の違いで価格格差が生じやすくなっていることを示唆している。

つまり、不動産は「どこを買っても上がる時代」ではなく、「立地によって明暗が分かれる時代」になっているのである。今後、人口減少や所得格差の拡大が進めば、この傾向はさらに強まる可能性がある。

また、住宅の購入金額に大きく影響するのが金利である。長期金利が急上昇し、一時2.8%という29年半ぶりの高さになった(※1)。背景には、世界的なインフレ圧力に加え、日本国内でも財政拡張観測が強まっていることなどがある。中東情勢に解決の見込みがなさそうだと世界が思えば、各国とも財政出動をしがちになる。そして世界的に主要各国の国債利回りが上昇する可能性がある。特にアメリカは莫大な国債を発行しているが、この価格が大きく下がると世界の金融市場に大きな影響を与える可能性がある。なお日銀は、外資系等が投げ売りした場合の不動産価格動向について、ベースシナリオに対してマイナス25%の乖離をストレスシナリオとして置いている(※2)。

具体的な連動経路は一つではないが、たとえば、中東情勢などを背景に、世界的に財政支出が拡大し主要国の国債発行が増えれば、長期金利上昇圧力が強まりやすくなる。ここで、世界の金融システムの中核である米国債価格が大きく下落し、金融機関やファンドが損失を抱えれば、現金確保を優先する動きが広がる可能性がある。その場合、流動性の高い都心部の大型不動産や収益不動産が売却対象となりやすい。世界的な金利上昇局面では、こうした資金逆流が発生する可能性がある。

日銀のレポートにもあるように、日本の商業用不動産のイールドギャップ(不動産の純利回りと10年国債利回りの差、※3)は、低下傾向にあり(国際的にみても不動産価格は割高になっており)、こうした大きなイベントで資金逆流が起きやすい状態にある可能性がある。そして、不動産価格は短期的には粘着的だが、一度トレンドが転換すると、その流れは数年単位で続くことも少なくない。

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