似たような決済手段がまた一つ増えるワケ

2025年、資金決済法に基づく円建てステーブルコインの第一号認可が公表された。複数の銀行や企業グループも参入すると報じられ、「デジタル通貨」という言葉は今や経済紙の紙面にあふれている。日本のメガバンクやベンチャー企業が発行する円建てのデジタル通貨が、国際貿易決済や新しいキャッシュレス取引の基盤になる――そう期待する見方も少なくない。円建てデジタル通貨による決済は、近い将来、PayPayや交通系ICといった既存のキャッシュレス決済よりも便利なものとして普及していくのだろうか。

結論から言えば、各国で制度化が進むデジタル通貨が国際決済の中核を担う可能性は低く、キャッシュレス決済を大きく変えるとも考えにくい。導入されても、既存の決済手段に類似した仕組みが一つ追加されるにとどまるだろう。現実とかけ離れた期待が膨らんでいる背景には、「デジタル通貨」という言葉のもとで異なる現象が混同されていることがある。

数年前まで、デジタル通貨といえば中央銀行デジタル通貨(CBDC)が中心的なテーマであった。国際決済の高度化や金融包摂の手段として期待され、各国の中央銀行が検討を進めたが、世界に先駆けてCBDCを導入したバハマなどでも、流通残高は少なく、日常的な決済手段として利用されてはいない。技術的に可能でも、必要性や利便性がなければ定着しないことの証左である。

では、実際に拡大したデジタル通貨とは何か。それは暗号資産の一種であるドル建ての制度外ステーブルコインである。これらは各国の規制法ができる前に自然発生的に生まれたもので、その代表であるUSDTの発行残高は30兆円規模に達し、英国ポンド紙幣の発行残高を上回っている。

制度外ステーブルコインは主として暗号資産取引の交換手段や担保として拡大し、取引所や分散型金融(DeFi)(※1)で資金を移動させるインフラとして機能している。一部の国では実体経済でも利用されている。ナイジェリアやアルゼンチンのように、自国通貨への信認が揺らぎ、外貨アクセスにも制約のある国では、USDTは革新的な決済手段というより、ドル建て資産保有の手段として使われている。

暗号資産の世界では、秘密鍵が漏洩すれば資産も失われ、誤送金も取り戻せない。専門的な体制を持つ交換業者ですら巨額の不正流出を繰り返している。USDTなども同様の自己管理リスクを伴う。この点を理解すると、なぜ同じ仕組みが先進国で広がらないのかが見えてくる。先進国では、銀行預金や証券口座を通じた資産保全や補償、法的保護が整っているから、不正送金や盗難のリスクを利用者自身が全面的に負う仕組みは選ばれにくい。

それでもなお先進国で利用が広がるとすれば、そこには強い経済的インセンティブが必要となる。実際に観察されるのは、高利回りを謳うDeFiや投機的な収益機会である。しかし、ここで提供されている利回りは、伝統的な意味での安全資産の運用益ではない。その多くは、暗号資産の値上がり期待やレバレッジ需要を背景とする収益の再配分であり、表面的に金利の形をとっていても、実態は価格変動リスクや信用リスクを引き受けた対価である。DeFiの利回りは暗号資産市場の活況に依存して変動し、相場が下落すれば急速に縮小する。(※2)

したがって、制度外コインは、安定した決済手段としての利用を支える基盤にはなりえない。価格変動、流動性の枯渇、スマートコントラクトの脆弱性といったリスクと不可分であり、金融としての安定性とは両立しにくい。

日本の取り組みは予防的対応にすぎない

こうした問題を回避するために、日本を含む先進国では銀行などが関与する制度内コインの法整備が進められた。資産の裏付けや発行者規制、マネーロンダリング対策を組み込み、安全性を確保しようとする試みである。

だが、ここには別のジレンマがある。安全性を高めれば利用の自由度は制限され、利回りも乏しく利用場面も限られるため、「安全であるがゆえに使われない」という構造に陥りやすい。

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