罰則規定を難しくする「風営法」の存在
高市早苗首相は昨年11月、売春防止法※1の規制をめぐり、買春行為側(買う側)への罰則を含めた見直しの検討を法務省に指示した。
法律が成立して70年がたっているが、日本ではこの間「売った側」が罰せられ、買った側は罰せられてこなかった。120年近く続く堕胎罪の「堕胎した女性は罰せられるのに妊娠させた男性は罰せられない」問題と根はまったく同じで、日本の法体系は依然として女性差別の構造を抱えている。
売防法改正で今回注目されている考え方が「廃止主義(ノルディック・モデル)」である。売買春における売り手を非犯罪化し、買い手(客)を罰することで、需要を遮断し性の搾取をなくそうとする法解釈で、スウェーデン、ノルウェーなどが導入している。
要するに、「恥ずべきは客のほう」「買春は女性への暴力であり社会的搾取」という認識がこの根底にある。売り手はあくまでも「被害者」であり、更生支援や社会復帰サポートが提供される。
私が刑法を研究しているフランスは、多くの高名なフランス文学にも著されているように、かつては買春に寛容な国であった。しかし政治家たちによる長年の実態調査の結果、「性は人格と切り離せないものであり、売買の対象とすること自体が人格への侵害・搾取」とする考え方に至り、2016年、「廃止主義」を採用している。
同じヨーロッパでも、オランダやドイツの考え方はかなり異なる。両国は、売春を合法化して管理する「管理主義(レギュレーショニズム)」を採用した。性を売ることがサービス業の一種であると捉える「セックスワーク(性労働)」の概念があるためだ。たとえ売買春を禁止しても地下に潜ってしまい、規制も保護も行き届かなくなるとの観点から、両国は行政主導のもと、売る側に対して定期的な健康診断を受けさせたり、避妊具の使用をルール化したりして性感染症の拡大を防ごうとしている。
ただ、この考え方で管理しても犯罪抑止は難しくなっているのが現状だ。人身取引が拡大したという批判も出ており、見直し論が持ち上がっている。例えば有名なオランダ・アムステルダムの売春街「飾り窓地区」は現在も存在しているが、観光客らによる女性たちへの暴言や隠し撮り、反社会的組織の介入とマネーロンダリングの疑い、人身取引の巧妙化などが問題化している。
私自身は管理主義と廃止主義のどちらが良いと考えるかといえば、当然廃止主義だ。しかし、日本では性交自体は禁止してもそれに近い行為を規制のかかった状態で許容する性売買が存在する。つまり、風営法※2である。
日本は、そもそもオランダ・ドイツと似た状態なのだ。性交以外の性的サービスが、「風営法」という法律によって許容されてしまっている。性交にしてもグレーゾーンの店舗で行われている現実があり、誰もが見て見ぬふりをしている。フランスにはそもそも風俗営業を公に許容する法体系が存在しなかったので、廃止主義に乗り出すことが可能であった。
日本がもし売買春の廃止に乗り出すとしたら、風営法を廃止するか改正するかしかないのではないか。この点が、売春における買う側の罰則規定を難しくしている。
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