出没要因は大きく分けて3つある

2025年は災害ともいうべきクマ(ヒグマとツキノワグマ)の大量出没が発生しました。出没情報は、25年11月末までに過去最高の3万件超、被害者は230名に達しました。捕獲数は1万2000頭以上と、ついに1万頭を超えました。9月から施行された市街地における「緊急銃猟(※1)」も4カ月で50件以上も実施されました。実際に発砲に至らなかったものを含めると大変な数の「緊急銃猟」態勢が準備されたことになります。

※1:一定の条件下において、市町村の判断で市街地に出没したクマに発砲できる制度。

なぜ突然こんなに出没したのか、という疑問を抱く人も多いでしょう。しかし、実はクマの大量出没は、令和に入ってからすでに顕著となっていたのです。特に、北海道、東北地域では、凄惨な人身被害が繰り返されています。ただ、クマの大量出没は毎年起こるわけではなく、数年に一度であるため、次はこんなに出没しないだろう、という希望的観測で対策が進まないという特徴があります。実際には、大量出没の規模が年ごとに大きくなっており、被害も深刻化しています。

クマは、生態的特徴がユニークで、調査研究も出没対策も非常に難しい動物です。そのため、生息動向すら十分に把握されていない地域が多いのです。ただ、わからないからといって、対策をしなくてよいわけではありません。そして、付き合い方を間違えると人間社会にとっては大きな脅威となります。

出没要因について、世間では意見が分かれているようです。個体数の増加なのか、ドングリなどの食べ物がないのか。どうしても二極対立にもっていかれてしまいますが、2つは相対するものではなく、両方とも正解です。

重要と考えられる順に出没要因を示すと、①個体数が増加し分布域が拡大している、②人里周辺での定着・人慣れ個体の増加、③ドングリ類などの一斉凶作です。そのほか、地域ごとの要因もありますが、同時多発的に発生していることを考えると、まずはこの3点について、把握し対策を検討する必要があります。

最初に、個体数増加ですが、残念ながら生息動向が把握できている地域は限られますので、捕獲数を一つの目安となるデータとして考えてみます。24年と25年(11月まで)の捕獲数を都道府県別に図に示しました。あまり報道されていませんが、24年は西日本でドングリの一斉凶作(※2)となり、秋に大量出没が発生しました。東日本の出没は抑えられていました。一方、25年は西日本では豊作、東日本は大凶作、といった具合に秋の食物資源は、「西高東低」だったのです。大きく異なるのが、大量出没時の捕獲数の規模です。多い年でも西日本では1府県で300頭以下ですが、東日本では、年間500頭以上、さらに1000頭以上が6道県も見られます。これだけでも東日本のクマの生息数の規模がかなり大きいことがわかるでしょう。

※2:豊作の年に樹体内の窒素などの貯蔵養分を使い果たすと、回復するまで花芽を作れず翌年に凶作になる。

実は西日本では、00年頃クマは絶滅の危機にあり、保護政策が取られていました。保全対策が進められ、様々なデータが蓄積されてきました。10年以降、個体数の回復が確認され、20年頃には、多くの府県で保護から管理へ政策転換が図られてきました。東日本では、西日本に比べると元々の生息数は安定しており、狩猟も認められていました。ただし、捕獲しすぎると西日本のように減少してしまう恐れがあるため、狩猟は自粛する傾向にありました。生息数は安定していると考えられており、クマの保護管理に積極的に対応する自治体が少なかったようです。調査が進まず、個体数の増減傾向が把握されないため、政策転換も図れなかったことが25年の未曾有の出没につながっています。ここまで増加していることは誰も想像できなかったというのも事実です。

以上のように個体数の増加が不明のまま、23年にはすでに甚大な出没被害が発生しました。この時点では、市街地での発砲は法律で禁止されており、市街地での捕獲は困難を極めました。捕獲された事例もありましたが、多くが立ち去るのを待つしかなかったでしょう。市街地にはゴミ箱や庭木の柿や栗、農地の落穂など人にとっては価値のないものでも、クマにとっては栄養価の高い資源が豊富にあるのです。このことを学んでしまったクマが捕獲されず、食物資源が不足した25年にふたたび市街地にやってきました。クマは長寿で学習能力も非常に高い動物です。一度良い場所と覚えるとその場所に繰り返し出没します。個体数が増えているだけでなく、市街地を良い場所と覚えたクマも想像以上に増えていたことが、被害を加速したと考えられます。

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