5年前の春、散歩の途中でふと足を止めました。全面ガラス張りの店の奥で、バックバーにウイスキーの瓶が柔らかな光を放ちながら並び、天井には大きなシャンデリアが輝いていました。ググッときて扉を開けると、カウンターに立っていたのが井上店長でした。

三省堂書店社長 亀井崇雄、Bar96 MOON店長 井上純一
東京・月島の「Bar96 MOON」にて。

後から聞くと、このスワロフスキー製シャンデリアは350万円もしたとか。取り揃えるウイスキーは約300種類。休日には自費で全国40カ所以上の蒸留所を回り、納得した銘柄だけを仕入れるそうです。カウンターに立つ井上店長の知識と情熱に、その日のうちに惚れ込み、以来ずっと通い続けています。

縁は思わぬ形にも広がりました。神保町発のクラフトジン「SHOT STORY」の構想に、井上店長も関わってくれたのです。蒸留所の紹介だけでなく、味の監修まで引き受けてくれて、「これは駄目です」と蒸留技師に直言しながら一緒にお酒を造ってくれました。

3月19日に、三省堂書店神田神保町本店はリニューアルオープンを迎えました。準備が佳境を迎えた頃、よくこのバーに足を運びました。胃がピリピリするほど追い詰められた夜も、井上店長と言葉を交わしているうちに気持ちが楽になる。彼のおかげで無事に開店の日を迎えられたと思っています。本もバーも、日常から少し抜け出せる場所。井上店長と語らう時間が、私にとっての大切なガス抜きであり、新しい挑戦への活力になっています。(亀井)

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2026年5月15日号)の一部を再編集したものです。

(構成=木村千鶴(本誌編集部) 撮影=ミヤジシンゴ)

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