CDショップに通うのが、給料日の楽しみだった若い頃。私が聴くのは、もっぱらアメリカのR&Bで、日本語の棚は素通りでした。ある時、店内に流れた一曲に足が止まる。これR&Bなのに日本語だ――。手に取ってみると、ジャケットには「Ryosuke Imai」のクレジットが。それ以降、いちファンとして彼の作る音楽を追い続けてきました。

実際にお会いしたのは、それから20年以上経ってからのこと。ダチョウ肉の普及イベントに今井さんが招かれていて、名刺を交換。最初は同姓の方だと思っていました。「音楽を作っていて」と言われた瞬間に、「あの今井さんだ!」と大興奮。以来、定期的にお会いするようになりました。

吉野家名誉会長 河村泰貴×音楽プロデューサー 今井了介
東京都港区の「Studio Vision」にて。

東日本大震災を機に、今井さんは食の支援事業「ごちめし」を始められました。被災地で自らの無力さを痛感したことが、きっかけだったといいます。「音楽は1年聴かなくても人は死なないが、食べないと生きられない」。これだけの実績のある音楽家が、自らの仕事の限界を率直に語る。その謙虚さに胸を打たれました。

さらに感服するのは、謙虚さが戦略性と同居していることです。被災地で抱いた強い思いを、単に感情の発露で終わらせず、持続する事業として再設計する。音楽制作で培った「主観と客観を行き来する」という哲学を、音楽以外にも広げています。経営の要諦を実践する今井さんは、私の師匠の一人。音楽の喜びだけに留まらない、多くの学びをいただいています。(河村)

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2026年7月3日号)の一部を再編集したものです。

(構成=加藤圭悟(本誌編集部) 撮影=小田駿一)

検索時にプレジデントオンラインに関連する記事が表示されます

【関連記事】
絵の前で、初心に返る――学研ホールディングス社長 宮原博昭×女優・画家 城戸真亜子
不利を覆す醍醐味――ベイン・アンド・カンパニー アジア太平洋地域代表 奥野慎太郎×元バレーボール日本代表 三屋裕子
胃がピリピリする夜も――三省堂書店社長 亀井崇雄×Bar96 MOON店長 井上純一
「話せばわかる」は大ウソだった…養老孟司×藤原正彦「噛み合わない人」の頭の中
なぜ、あの人と一緒にいると傷つくのか…精神科医が教えるイヤな一言に反応しない技術