粉砕しただけのお茶が輸出先で「抹茶」商品に
世界中で「抹茶」の需要が急速に拡大している。ところが、世界的なブームの裏で、日本が育んできた本物の抹茶の価値が揺らぎかねない事態が進んでいることをご存じだろうか。
伝統的に日本の茶文化の中で育まれてきた抹茶は、茶道・宗教儀式・社交儀礼などにおいて象徴的な役割を担ってきたが、最近では、健康志向・自然志向の高まりを背景に、食品・飲料産業における新しい機能性素材として世界的に注目を浴びるようになった。
とりわけ、粉末として茶葉をそのまま摂取することは、浸出液を飲用する一般的な緑茶とは異なり、茶葉の持つ栄養素・機能性成分を余すことなく体内に取り込むことを可能にしている。この特性は、健康飲料、サプリメント、菓子類、さらには化粧品原料にまで応用が広がり、様々な利用場面がSNSなどで発信され世界市場における抹茶の価値を飛躍的に高めている。
市場統計によれば、2024年時点で世界の抹茶関連市場規模は約38億ドルに達し、28年には60億ドルを超えると予測されている。日本でも粉末状のお茶は農産物輸出を牽引する中核品目となっていて、25年にはお茶全体の輸出量が71年ぶりに1万トンを超えた。輸出額も前年比204%と倍増し、全体で約721億円に達している。
輸出の約80%を粉末状の茶が占めた。この急増している粉末状のお茶は世の中に出ると「Matcha」の名が冠せられた製品となることも多く、消費者からは「What is Matcha?」「Is thisMatch?」と混乱する声もある。実は、「Matcha」と名付けられた粉末状のお茶の中には、本来の製法で生産された抹茶と、単に茶葉を粉砕した粉末茶の両方が含まれている。
本来の抹茶は茶道文化とともに発展してきた日本独自の茶だ。抹茶は「碾茶」と呼ばれる原料から作られ、碾茶の生産には、通常の煎茶とは異なり新芽から20日近く茶葉を覆って日光を遮る「被覆栽培」が不可欠である。被覆栽培により旨味成分であるテアニンが増加し、独特の風味と鮮やかな緑色が生まれる。
ところが、秋冬番茶、モガ茶(※1)等を粉砕し、加工用原料として「抹茶」の名前を冠したものが商品化されているものも見られる。中国をはじめベトナム、タイ、インド、アフリカなどの新興産地の参入も見られ、抹茶の国際市場は急速に多極化しつつある。
※1:秋冬番茶は秋から初冬に収穫される低価格の茶。モガ茶は高価な碾茶炉を使わず、煎茶用の機械で茶葉を揉まずに乾燥させた碾茶風の茶で、主に加工用粉末茶の原料となる。
これまで、国内では急須で淹れる煎茶の需要が減少し続けてきた。欧米やアジア各国で「Matcha」という言葉が一般化し、高級飲食材としての地位を確立しつつある現在の状況は、日本の茶産業にとって歴史的ともいえる追い風のようにも映る。
茶葉の生産を増やしても抹茶加工が追い付かない
しかし、その実態を丁寧に見ていくと、現場の農家は必ずしもこの状況を手放しで歓迎できないことがわかる。急激なブームに農家が対応しきれないだけでなく、抹茶そのもののブランドが脅かされかねない事態が迫っているからだ。
ここから先は有料会員限定です。
登録すると今すぐ全文と関連記事が読めます。
- 広告最小化で快適な閲覧
- 雑誌『プレジデント』が最新号から読み放題
- ビジネスに役立つ学びの動画が見放題
- 会員限定オンラインイベント
検索時にプレジデントオンラインに関連する記事が表示されます



