20年以上運用すればほぼ元本割れしない

「安全性の箱」を整えたら、残りは余裕資金として「収益性の箱」で育てます。ここで支えになるのが、長期分散投資の考え方です。短期間で大きく儲けようとせず、時間を味方につけて資産を育てる姿勢が、最終的に大きな差を生みます。地味に思えるかもしれませんが、堅実に資産を増やしてきた方々が実践してきた方法でもあります。

実際の数字をご覧いただきましょう。日本を含む全世界株式の指数に、1998年7月から2026年5月末まで毎月1万円ずつ積み立てを継続したとします。すると、投資元本の累計335万円が直近ではおよそ2258万円まで増えています。投じた金額のおよそ7倍、年率に直した平均リターンは12%にのぼります(税金や手数料は考慮せず)。特別な銘柄選びや、相場を読む技術が必要だったわけではない点が重要です。世界全体の成長を毎月コツコツと1万円ずつ、愚直に買い続けただけで得られた成果なのです。

ただし、この道のりは一本調子の右肩上がりではありませんでした。グラフを見ていただければわかるように、途中には積み立てた累計金額を資産評価額が下回る、いわゆる元本割れの時期も経ています。例えば2008年のリーマンショックの直後は10年間継続した積み立て資金がマイナスに転じ、実際に投資していれば多くの方が不安に駆られたと思います。ですが、もしそこで怖くなって投資商品を売却し「こんな思いをするのはこりごりだ」と積み立てをやめてしまっていたら、先述の成果は得られませんでした。毎月定額を積み立てる投資では、価格が下落すればその分多くの口数を買い込めます。安く仕込んだ分が、相場の回復とともに資産増に貢献したわけです。

なぜ長期間資産をリスク市場に置いておくことが大切なのかというと、運用する期間が短いとたまたま大きく下がる局面にぶつかったときに、回復を待たずに終わってしまう恐れがあるからです。「安全性の箱」は10年以内に使うお金を守る場所だと述べました。対して「収益性の箱」に入れるお金は20年、あるいはそれ以上の年月をかけて育てるものだと考えてください。長い期間をかけて積み上げていけば、途中で下落があっても、元本割れのまま終わる可能性は下がります。そして20年以上運用を続けると、複利の効果も相まって、歴史的に見てほぼ元本割れはない「想定安全圏」に近づきます。

ここまで読んで「相場が大きく崩れる直前の高値で売って、暴落の大底で買い戻せば、もっと増やせるのでは」と思った人もいるでしょう。それは確かにそのとおり。ですが、売買の好機を正確に当て続けるのはプロでも至難の業なのは言うまでもありません。

01年12月末に100万円を国内株式(TOPIX)に投資した場合の資産価値の推移を見てみましょう。そのまま一切売買をせずに持ち続けた場合、24年までの23年間で約346万円(246%増)になりました。対して「もし」値動きを完璧に読んで下落の大きかった上位3年を回避できていたら、資産は約980万円にまで膨らみました。けれども逆に相場を読みきれず大きく上昇した3年を取り逃がしてしまったら、資産は約223万円にとどまってしまいました。未来を読みきれない私たち一般人にとっては、市場に長く居続けることが唯一の勝ち筋なのです。

資産形成の観点だけで見れば、お金はなるべく早く市場に入れたほうが有利です。まとまった資金のある方なら、NISAの投資枠を早めに埋めていく方法もあります。たとえば毎月30万円ずつ積み立てれば、生涯投資枠の1800万円を5年で使い切れます。仮にこれを年率5%で運用しながら20年間保有できれば、リスクが中間的な想定(中央値)で約3400万円に増やせる試算もあります。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2026年7月17日号)の一部を再編集したものです。

(構成=渡辺一朗)