熟睡は「たまに」でちょうどいい…眠りに悩む人が楽になる本
人生の3分の1近くは寝ているから、睡眠時間を何とか工夫しようと考える人は少なくない。私自身も若いころ睡眠学習に凝ったことがあり、就寝中に機能したかどうかはいざ知らず、昼間の教室で居眠りばかりしていた記憶がある。期末テストの結果がボロボロだったので、全く役に立たないと悟る苦い経験だった。
こうした愚かな時間を無駄に費やすことなく、最適の睡眠を確保するのに打ってつけの本が出た。著者は日本睡眠学会理事長も務めた優れた精神科医で、体内時計や睡眠障害研究の第一人者である。
「なんだか近頃よく眠れない」というのは古希を迎えた私だけでなく、20〜50歳代の教え子たちにも共通の悩みである。
「日本人は世界一の睡眠不足」と言われて久しいそうだが、それ自体が間違っていると名医の著者は大胆に説く。我々の平均睡眠時間(7時間22分)は理想の睡眠時間に近いのだ。
不眠に悩む人があまりにも多いため、世間では「あれをすべき」「これはすべきではない」という指導が溢れている。睡眠に対して「異常に気を使う」ようになって、結果的に不眠を招いているのである。
本当に問題にすべきは睡眠不足ではなく、「時間を確保しているのに眠れない」という心の不安なのだ。確かに私もそうで、眠れぬ夜に「なんとか熟睡しなければ」と焦ることがある。その努力がかえって眠りを遠ざけている。
振り返ってみると、睡眠を「人生の最重要課題」のように扱うこと自体、余計な苦しみを生み出していると著者は考える。よって「長く眠るほど健康によい」という思い込みを解きほぐすことから始める。
睡眠治療の臨床プロである著者は、「睡眠は人生の目的ではなく手段である」と考える。そもそも「正しい睡眠を教えてあげる」指導が間違っているのだ。生活習慣病への保健指導が徹底しているわが国では、言われたことはきちんと守るからだろう。一方、この真面目な態度が余計な不安を増幅していることも確かである。
これは評者の専門である地震防災についても同じだ。SNSで流布する地震情報に振り回されて日常をビクビク暮らしている人が多いが、実は、本当に危ない点だけ避ければよいので、専門家の話を聴けば過度の不安にならずに済む。睡眠も地震も、世間の言説はあまり当てにならない。
本書は睡眠の常識を疑うことから始まり、一般に信じられている定説を一つ一つ検証しながら、最新の知見に基づく医学上の正解を伝授する。メディアが煽る「寝る前のスマホは厳禁」に対しても、「通常の使い方なら問題ない」と喝破する。結論として、「熟睡は『たまに』でちょうどいい」のだ。ぜひ今晩から試してみてはいかがだろう。
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