日経平均株価は最高値更新から、わずか1カ月で大きく下落した。値動きに振り回されないためには、数字を動かす仕組みを知っておく必要がある。経済指標を読み解くプロの2人に、投資に役立つ数字の見方を聞いた。
鉄則1 株価が急落しても慌てない売る前に下がった「原因」を探る

「落ちてくるナイフ」を摑むべきか見送るべきか

【吉野】7月の日経平均株価の急落は記憶に新しいでしょう。6月25日に7万2366円をつけてから、わずか1カ月も経たないうちに8000円以上も値下がりする事態に。慌てた方も多かったのではないでしょうか。

多くの方は下げ幅の大きさを見て驚いてしまいますが、株価が下がったときにまずやるべきなのは、「何が原因で下がっているのか」を整理すること。下落の理由によって、取るべき行動は全く変わってきます。企業の価値そのものが損なわれたなら売るべきですが、相場の外側の事情で下がっているのなら、慌てて売る理由はありません。まずはそこを切り分けるのです。

たとえば今回の下落には、大きく2つの原因があります。

一つはイラン情勢です。ホルムズ海峡を通る艦船への攻撃が始まり、和平交渉が白紙に戻った。これは政治の話ですから、事態が動けば相場も動きます。中東での戦闘が長引いたときは株価が弱い、というデータは過去にも出ています。逆に言えば、終結のめどがつけば戻ってくる性質のものです。

もう一つは、データセンター需要の先行きに対する疑問です。ここまで株価を押し上げてきたのは、AI関連の設備投資でした。ただ、「2026年にAI向けデータセンターの整備が一気に進められるため、27年以降は投資の伸び率が減少するのではないか」という弱気な見方が出てきた。これに対して「AIエージェントやフィジカルAIが普及すればデータはもっと必要になる、需要は続く」という強気の見方もある。綱引きの状態です。

正直に申し上げると、どちらが正しいかは現時点では誰にもわかりません。専門家もある程度「わかったフリ」で話しているところがあります。直近では、テック企業各社が好決算を出しても、強気の設備投資計画を伴ったものだったことで将来の利益が懸念され、株価を下げています。同じ材料でも、相場が弱気なときには悪いほうに解釈されてしまうのです。

では、わからないものをどう扱えばいいのか。ここで見るべきは、株価そのものではなく企業の業績です。

私が重視しているのは、今期の営業利益が前期に比べて10%以上伸びているか。営業利益を見るのは、本業でどれだけ稼げているかがいちばん素直に表れる数字だからです。そして、証券会社や四季報などの媒体が独自に発表している来期予想の伸び率が、今期の伸び率を上回っているかどうか。「今期2桁、来期も2桁」では足りません。今期10%増益なら、来期はそれ以上でなければいけない。

この基準で見て、成長期待が続いているのであれば、株価が下がっても持っていていい。というより、下がったこと自体は売る理由になりません。

相場には「落ちてくるナイフは摑むな」という格言があります。一方で、「落ちているときこそ拾え」と言う人もいる。どちらも、値動きだけを見た話です。私が見ているのは、その企業自体が変わったかどうかだけです。企業が変わっていないのに株価だけが下がっているなら、理由は外部にある。状況が落ち着けば株価は回復します。

(構成=本誌編集部)