死体が臭うのはなぜか

真っ先に腐敗が進むのは、小腸や大腸などの消化管です。腸内細菌や体内の酵素によってガスが発生するため、体が内側から膨れ上がっていき、特有の臭気が発生します。

書影
飯野守男『法医学教授が教えている死体の授業』(飛鳥新社)

体内の腐敗と並行して、体表(皮膚)も緑色に変化していきます。鮮やかなエメラルドグリーンのような緑ではもちろんなく、皮膚が薄いところから黒ずんだ緑色を帯びてきて、やがて茶褐色に変わっていきます。最初に変色がみられるのは下腹部です。

やせ型の人に比べると、皮下脂肪が厚い人は変化が見えにくいです。腐敗による変色は、細菌が多い箇所から順に進んでいきますから、手足などの末端が最後になります。

死体が置かれている状況によって、腐敗の進行度合いは変わりますが、室内で死亡した場合、日本の真夏であれば死後半日ほど、冬場は死後3日ほどで腐敗臭が漂うようになってきます。腐敗臭がどんな臭いなのかの説明が難しいのですが、人間も哺乳類ですから、動物性タンパク質=肉が腐敗していく臭いが近いといえば近いかもしれません。

戦時中の遺骨が今でも見つかるワケ

一方で、髪の毛はそのままの姿で残ります。頭皮の腐敗がはじまると接着しなくなるため、頭から抜け落ちはするのですが、髪の毛の変性のスピードは非常に遅いため、完全に分解されるまでに数十年かかることもあります。爪は剥がれ落ち、歯は抜けるものの、髪の毛同様に長く残ります。そして最後の最後に残るのは骨と歯です。

ジルコニアと入れ歯
写真=iStock.com/xiao zhou
※写真はイメージです

おもにカルシウム塩で構成されている骨や歯は、最も腐敗しにくい体のパーツです。戦時中の遺骨が今なおみつかるように、骨は長期にわたって形を保つことが可能です。本気で「肉体が土に還る」ことを目指すのであれば、骨を土と同じくらいの細かな粉末状にする必要があるでしょう。

室町時代に描かれたといわれる仏教絵画「九相詩絵巻くそうしえまき」には、ここで解説した死体現象のプロセスが9段階にわけて生々しく描かれていますので、ビジュアルで把握したい人はぜひみてみることをおすすめします。この絵巻は世界的に有名な法医学の教科書の表紙絵にも採用されています。

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