児童虐待や性暴力を暴くもう一つの法医学

ちなみに、死体がおもな対象となる法医学ですが、中には生きている人を対象にしている「臨床法医学」という分野もあります。臨床法医学に含まれるのは、児童虐待や性犯罪などです。

虐待や暴力による損傷の原因や時期、治癒の見込みを法医学的に評価することで、裁判の証拠として使用されます。海外では一般的な臨床法医学ですが、日本ではまだあまり体系的に確立されていないため、残念ながら積極的には行われていないのが現状です。

やや脇道にそれますが、死体はどのように腐敗していくかについても、ここで触れておきましょう。法医学には「死体現象」という用語があります。これは死亡したあとに、どのような物理的・化学的変化が現象として現れるのかを意味する言葉です。日本では「心臓死」によって死と判断されますが、心臓死は次の条件、死の三徴候の確認を医師が行うことで死亡と判断されます。

❶心拍動の停止❷呼吸の停止❸瞳孔どうこうの散大(中枢神経の活動の停止)

死の三徴候がすべて確認された瞬間から、その人は社会的に「死体」となります。余談ですが、数年前にイタリアの学会に参加した際、解剖室の見学をさせてもらったところ、解剖室の中に心電図を測る心電計が置かれていました。

日本の解剖室で心電計はまずみかけません。「なぜ死体を解剖する部屋に心電計を置いているのか?」と聞くと、「死後24時間以内の死体の解剖をしなければならない場合、20分以上は心電計をつけっぱなしにして、絶対に心臓が動いていないかを最終確認する必要があるからだ」との答えが返ってきました。

人が死んでから骨になるまでの

死後すぐの死体解剖は慎重さが必要ですが、もしかすると過去に死亡確認がいい加減だったせいで、「死体が生き返った!?」などの事例がイタリアではあったのかもしれません。なお、日本では死後24時間以内の火葬は禁止されていますが、解剖は禁止されていません。

死体現象に話を戻しましょう。心臓が停止したあとは、筋肉の硬直(死後硬直)がはじまりますので、身近な人の死に立ち会った経験があれば、死後硬直までは現象として目にしているのではないでしょうか。

火葬が行われる日本では、その数日後に骨となった姿が終着点となりますが、自然環境下で心停止した死体を放置した場合、どのような現象が起きるのかまではあまり知られていないようです。まず失われるのは「ぬくもり」、すなわち体温です。心臓が停止すると体の温度は徐々に低下していきます。死体の体温は通常直腸温を測定します。

火葬場
写真=iStock.com/Ritthichai
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体の内部のほうが冷めにくいからです。続いて死後硬直が発現し、関節が固くなってきます。そして死斑しはんが現れます。死斑は重力によって血管内の血液が体の下側に沈んで、皮膚の色が赤紫色になってくる現象です。仰向けであれば背中側、うつ伏せであれば胸や腹に現れます。その後、死後硬直は緩み、次に変化が起きるのは腐敗です。

このとき、先に腐敗していくのは体の外側ではなく、内側の内臓です。