法医学者でも死体は得意ではない

法医学の「法」とはいうまでもなく、「法律」を指します。法医学者とは、法律がかかわる諸問題において医学的知識を提供する医師です。いい換えると、法律と医学がかかわる一番大きな案件が「人の死亡事案」であり、そこに事件や事故がかかわっているのかを医学的に解明するのが法医学者であり、そのためのおもな対象が「死体」ということになります。

犯罪現場
写真=iStock.com/ilbusca
※写真はイメージです

この仕事をしていると「死体は得意なんですか?」と聞かれることがありますが、答えは「いいえ、得意ではありません」です。死体が好きで、得意だからやっているわけではなく、事件や事故の原因を探るために誰かが死体を解剖する必要があるため私がやっているだけです。いわゆるお医者さん(一般臨床医)と法医学者の最大の違いは、治療をするかしないかでしょう。

治療が生きている人間を救うための前向きな行為であるのに対して、死体解剖は過去になにが起きたのかをレトロスペクティブ(うしろ向き)に解明します。その矢印の違いこそが、一般臨床医と法医解剖医が決定的に違う点です。