1971(昭和46)年に設立された「全日本洋菓子厚生年金基金」は、洋菓子や製パン業200社あまりが加入する総合型厚年基金だった。その歴史は古く、1961(昭和36)年にできた協同組合全日本洋菓子工業会という業界団体を母体としていた。加入企業には、「上野風月堂(※)」「コロンバン」「文明堂」「ヨックモック」「泉屋」など、だれもが聞き覚えのある名前が並ぶ。(※:風月堂の正式な表記は「風」の字の「几」中が「百」)
2005(平成17)年4月には、加入事業所は196社(加入員数3万1477人、受給者数7205人、待期者約6500人)となっており、比較的規模が大きい総合型の厚年基金だった。
ただ、総合型厚年基金の運営実態は、数だけからは推し量れない。実は、3万人超の加入員のうち1万人以上が同一企業の従業員だった。同厚年基金加入者の3分の1以上が、日本マクドナルドの従業員だったのである。
日本マクドナルドは、2005(平成17)年末時点で社員4700人と全パート従業員2万4000人のうちの半数近くが同基金に加入していた。
同基金でも、他の基金と同様、2000(平成12)年から3年連続で運用利回りがマイナスとなった。その結果、2002(平成14)年度末には、設立以来初めての「代行割れ」に陥った。激減した年金資産は、代行給付に必要な最低責任準備金を約34億円も下回り、そのままでは掛金を従来の倍以上に引き上げるしかなかった。
しかし、日本マクドナルドを除けば、加入企業の大半は中小零細事業所である。しかも、業界を取り巻く環境は、贈答品市場の減退、個人消費の低迷、関税引き上げによる材料調達費の高騰など、非常に厳しい状況にある。老舗が名を連ねてはいるものの過半数の企業が赤字状態で、掛金の負担増はきわめて困難な状況にあった。
日本マクドナルドの苦悩も深かった。今後、上がり続ける掛金を納めていくことが、果たして自社の従業員の福利厚生につながるのだろうかと、自問自答していた。
そんな状況の中で、厚生年金適用の対象を拡大しようとする動きが政府の方で出てきた。パート従業員の厚生年金加入条件をこれまでの週30時間以上勤務から週20時間以上勤務に引き下げようとするものだった。マクドナルドの経営は、多くのパート従業員によって支えられており、基準の改定が実施されれば、日本マクドナルドの同基金への加入員数は一気に数倍に増えることとなる。日本マクドナルドにとっては、掛金の負担額が一挙に跳ね上がることになるわけだ。実際には、財界と労組の双方からの強い反対で見送られた。だが、またいつ改定の動きが出るともかぎらない。
折しも、日本マクドナルドのCEO・原田泳幸氏は「マクドナルドには年間14億人のお客様が来店する。1人のお客様からの利益が1円増えることが、年間14億円の増益につながる」と語っている。同社は、1円の差がビジネスを大きく左右することを身にしみてわかっているのだ。