年金関係者の驚くべきコメント
解散は基金で決議しただけではできない。1年近くの月日をかけ、解散に難色を示す加入企業、加入員への丁寧な説明と同意確認作業が必要になる。
日本マクドナルドは、従業員に基金解散を説明する資料の中で、基金解散に同意する意図について「会社が従業員の皆さまのために積み立てている掛金が、基金に加入する他の事業所の受給者を支えるための資金にもなっており、その全てが日本マクドナルド従業員のために有効利用されているわけではありません。基金への積立はマクドナルド従業員の福利厚生を目的とした投資としては必ずしも適切とはなっていないのが現状です」と説明した。
これらの手続きを経て、同基金は2007(平成19)年6月に解散申請、同6月末に厚労大臣に認可され、2007(平成19)年7月25日、全日本洋菓子厚生年金基金は解散した。
しかも、わずかではあるが残余資産も残しており、加入員に分配することもできた。
厚年基金が解散すると、年金資産の移転に伴う年金記録照合と、残余資産がある場合は分配を行う清算業務が発生する。同基金の場合、清算業務が終了したのは基金解散から約2年後の2009(平成21)年10月であり、事務的な不備などで所在が分からない年金記録(いわゆる“浮いた年金”となった人)が7000人分以上もあった。
この全日本洋菓子基金の解散については、ある年金関係者が驚くべきコメントをしている。
「昨年は、3万人を超す全国版の基金が解散した。最大手の事業所(引用者注:日本マクドナルド)が脱退の意思表示をし、残りの事業所で基金を維持できないと判断した。しかし、まだ数基金分の規模を残す大基金である。行政が存続を促し、基金分割や他基金と合併を指導した様子はうかがえない。年金財政の健全性は十分に保たれていた。解散理由は加入事業所の5割強が赤字経営だというが、ならば半数近くは黒字で掛金負担も可能であったことになる。解散を決議する代議員は、総合型の場合、ほぼ全員が事業主である。この基金には、6500人の待期者、7500人の受給者がいた。経済的損失と失望感は小さくない」(格付投資情報センター発行「年金情報」2008(平成20)年1月21日号(No.465)より)
この年金関係者のコメントは、企業経営の苦労などには思いも及ばす、ただひたすらに基金の存続だけを考えているように聞こえる。企業と雇用を守ろうと寝食を忘れて働いている経営者たちの耳にはどう響くだろうか。
中小・零細企業の中には、赤字決算となれば融資を引き上げられてしまうため、何が何でも赤字にできないと必死で舵取りをしている経営者も少なくないのである。黒字経営だったら掛金も払えるだろう、とは何とも無責任極まりない。また、掛金を上げれば赤字経営の企業の足をさらに引っ張ることになるのだ。
同厚年基金の解散は、「1円の積み上げで14億円の増益」という薄利多売の強さと怖さを知る企業が厚年基金脱退の意思を示したことで、多くの中小事業所が年金倒産に追い込まれずに済んだというドラマティックな成功事例だ。“年金財政の健全性”が保たれた状態で即座に解散を決めなければ、この成功はなかったはずである。
しかし、厚年基金の解散には「解散させようとしない」いくつかの力が働く。
そもそも厚年基金は、加入も脱退も任意、自由なのだ。大切なのは加入事業所と加入員の理解を得ることであり、障害があるとすれば、加入各社が代行割れに対処できる状況にあるかどうかである。保身や利権に固執する者の発言に耳を貸すべきではない。