AIJ投資顧問の年金消失問題で、にわかにクローズアップされた企業年金。とりわけ公的年金である厚生年金の役割も担っている厚生年金基金に大きな注目が集まっている。基金が運用を委託した資産の大半が消えてしまったという衝撃的な事件だが、ここから浮かび上がってくるのは厚生年金基金それ自体が構造的に抱える問題である。企業年金に詳しい経営コンサルタント・宮原英臣氏に、AIJ投資顧問事件の背後にある厚生年金基金の構造的ともいえる問題について聞いた。
AIJ投資顧問問題の本質は?
──AIJ投資顧問が、厚生年金基金からの預かり資産約2100億円の大半を消失させた今回の問題について、宮原さんはどのように見ていますか。
このニュースに接したほとんどの方は、年金資産の運用の問題ととらえておられると思いますが、その背景には、もっと深刻な、厚生年金基金制度そのものに根ざす問題があります。
もちろん、多くの方が指摘されているとおり、まずは運用責任があり、運用先の投資顧問会社だけでなく委託した側の責任も問われているわけですが、基金は本来被害者であり、基金に加入している中小零細企業や社員たちも被害者であるということを知っていただきたいのです。欲に目がくらんで一攫千金を狙ったのではないのです。そうではなく、手を出さざるを得なかった、やむなくAIJを選んだいうことを理解する必要があります。
──高利回りでの運用を選択せざるを得なかったということですか。
そのとおりです。それだけ基金の財政は逼迫し、基金の運営者も追い込まれていた。
その理由は、厚生年金基金の仕組みそのものに問題があるからです。厚生年金基金は企業年金ではありますが、同時に公的年金である厚生年金の一部を国から預かって運用しています。企業年金部分は、実は運営資金の2割程度であり、約8割は厚生年金という公的年金なのです。
──なぜ、そのような仕組みになっているのですか。
厚生年金基金制度が発足したのは、高度経済成長期の昭和41(1966)年です。右肩上がりの経済成長がつづき、運用で大きな利益を上げることが十分に可能な時代でした。
ところが、企業年金の資産だけではスケールメリットが生かせない。そこで、企業年金の何倍にもなる厚生年金を国から預かって、自社で積み立てる企業年金と一緒に運用すれば、小さな自己資金で大きな利益を上げることができる。ここから厚生年金基金がスタートしたのです。
──しかし、バブルが崩壊して資金運用を取り巻く状況は一変しました。
バブル時代が終わって、今まで何倍ものプラスを上げた仕組みが、逆に何倍ものマイナスとなって基金を苦しめることになります。つまり、スケールメリットがスケールデメリットとなってしまったわけです。基金全体の8割を占める国の厚生年金が生む運用損が、基金財政全体を悪化させる原因となりました。
財政逼迫には、もう一つ大きな理由があります。厚生年金基金のスタート時は受給者の数も少なかったのですが、団塊世代が老後を迎えた今はその数は増える一方で、年金の支払額も毎年増加し、どの基金も積立金を取り崩す状態にまでなっています。