無理な解散が企業の連鎖倒産を招くことも
──具体的に、厚生年金基金はどのような財政状況に置かれているのでしょうか。
国から預かって運用する厚生年金を「代行部分」といいますが、現在、この代行部分の支払いに必要な積立金まで赤字が食い込む「代行割れ」を起こしている基金は、厚生年金基金全体の約4割、200基金を超えているという状況です。
──基金財政を立て直す方法はないのですか。
一つは、加入企業が基金に支払う掛け金を上げることです。しかし、長引く景気低迷でこれ以上の負担増に耐えられない企業がほとんどでしょう。
次に考えられるのが、年金の給付を下げることです。しかし、先ほど申し上げたように基金の8割は厚生年金が占めているので、下げるとしても企業年金部分の2割ということになりますので、どう頑張っても基金全体の1割程度の引き下げにしかならないのです。
さらに問題なのは、高齢化社会の進展で年金の受給者が増え続けていることです。年金の支払額は、当初の想定を超えて膨らみ続けているのです。
──それを解決するためには、どのような方法が考えられますか。
まず、国からの「代行部分」を返上することです。「代行返上」するためには、国に代行部分を戻さなければなりませんが、今の法律では積み立て割合を100%にして返さなければいけないことになっています。
それでも、厚生年金基金を維持することの危険性に10年前から気づいていた大企業の多くは「代行返上」し、予定利率を引き下げるなどして対応しました。しかし、中小・零細企業で構成される「総合型」厚生年金基金は、代行返上、解散の機会を逃し、今日まで取り残されてきたのです。
──国も年金の運用がうまくいかず、資産が目減りしていることが問題となっていますね。
まさにそのとおりで、厚生年金基金本体の積み立て割合は30~40%にすぎません。にもかかわらず、基金に対して100%を要求するのは理不尽ですね。しかし、バブル期までは基金も大幅な利益を上げたわけだから、運用がマイナスになったからといって補てんできませんではすまないだろう、というのが国側の言い分なのです。
それでも、この10年ほどの間に、多くの企業が莫大な費用を投じて代行返上や基金解散を行ってきました。ただし、それができたのは体力のある大企業だけです。
中小企業が無理に代行返上を行おうとすると、経営に深刻な影響を及ぼす場合が多いのです。今、話題となっている神戸のタクシー会社の連鎖倒産は、まさに無理な基金解散が招いた悲劇です。