これほど徹底したコスト意識を持っている企業が、基金の掛金負担などは無駄の極み、一刻も早く解消したいと思っていたとしても不思議ではない。高い掛金を納めても、納めても、代行部分の赤字穴埋めで流れ出してしまうのでは、従業員へのメリットとなるべき「企業年金のバケツ」に水は貯まらない。
そしてついに、同社は厚年基金に脱退の意向を示した。
しかし、最大手の日本マクドナルドに脱退されてしまえば、基金の規模は一気に縮小する。財政悪化に拍車がかかるのは明らかだった。残された事業所だけではとても基金の運営は立ち行かない。日本マクドナルドが脱退の意思を見せたことによって、他の加入企業の厚年基金に対する認識も変わることとなった。
危機意識を共有した加入企業各社からも、基金解散の機運が高まってきたのだ。基金解散に必要な加入事業所の4分の3の承認も得られそうだった。障害となるものは代行割れによる負担金である。代行割れの状態で解散するためには、その時点で34億円もの多額の拠出金を全事業所で負担しなければならなかった。負担金を準備することができない零細事業所も多く、なかなか解散に踏み切れずにいた。
そこに、神風が吹いた。思いがけず運用利回りが好転したのだ。それは神風というより、まるで1円の重みを知る巨人の嘆息のようでもあった。
厚年基金全体の修正利回りが、総合ベースで16.17%(平成15年度)と当時としては基金設立以来の最高の利回りを記録したのである。その後も4.74%、21.08%(最高記録更新)と3期連続して高い利回りで推移し、基金の資産は一挙に増えた。
3年間も吹き続けた神風によって、2006(平成18)年3月に年金資産が610億円を上回った。上のバケツ(企業年金加算分)にまでは満タンにはなっていないものの、下のバケツ(代行分)に必要な積立金額は十分に賄える状態になった。この状態であれば、追加負担金の拠出なしで厚年基金を解散できるのだ。
この機を逃すわけにはいかない。これほど大きく、しかも短期間で資産が増えたということは、この先いつ運用が悪化し大きく資産を減らしてもおかしくないということでもあるのだ。同基金は、2006(平成18)年3月、即座に解散を決めた。