物価上昇に拍車がかかり続けている。大金はかけられなくても、豊かな気持ちで過ごす方法はないか。食のディレクター山口繭子さんが、発想の転換で楽しむホテルとレストランの使いこなしを紹介する――。

超高級ホテルをお得に堪能するなら

パリ出張時、私は途方に暮れていた。久しぶりのパリ、仕事とはいえ大いに堪能しようと息巻いていたのに、訪れて気がついた。なんという物価高、なんという円安地獄……。

張り切って予約していたホテルは、自分では割と奮発したつもりだったにも関わらず、日本のビジネスホテルに毛が生えた程度の部屋だった。

カフェで朝食をとれば数千円、ランチは1万円を超え、ディナーともなると、庶民的なビストロでもワインの酔いが覚めるような価格。ため息をついていた時に、たまたま同じタイミングでパリに来ていた知人から連絡があった。

「パリにいるの? 『オテル・ド・クリヨン』で会わない?」

それはコンコルド広場に面した超高級ホテル。かつてマリー・アントワネットの宮殿だった豪華絢爛な建物だ。そこに宿泊しているのかと聞いたら「まさか! でも泊まらなくても十分堪能できる方法があるんだよね」という。どういうことか?

一泊料金を調べてみると約30万円(当時)。ちなみにこの原稿を書いている今日の価格は39万8000円だ。もはや笑いが込み上げてくる。

オテル・ド・クリヨン
筆者撮影
コンコルド広場に面した重要文化財「オテル・ド・クリヨン」。宿泊費は1泊30万円を超える。

普段づかいの富裕層と肩を並べる

「泊まるなんて無理だけれど、バーでお酒を飲むだけでも十分に価値がある」と知人は言う。騙されたつもりで、多少の敷居の高さを勇気で突破して訪れたところ、果たしてそれは本当だった。その日我々は2杯ずつのカクテルを数千円支払って大いに堪能した。それでも高額といえば高額だが、しかし、超高級ホテルのバーに集う人々の様子をじっくり観察するという貴重な機会も得たのだった。隣席でノートPC片手にノンアルコールと思しき一杯を楽しんでいた地味な中年男性はカナダ人で、聞けば彼も出張族。「このホテルには2週間ほど泊まっている」と聞き(宿泊費だけで何百万になるのか……)、見た目はスティーブ・ジョブスっぽい雰囲気の奥に海外富裕層のパワーを感じずにはいられなかった。

バー レ・アンバサドゥールズ」のU字カウンター
筆者撮影
「オテル・ド・クリヨン」1階の「バー レ・アンバサドゥールズ」のU字カウンター。バーというより、もはや宮殿だ。右はメニュー表。渡されたサイコロ(中央)で決めるのも粋だ。