究極の炊飯器に予約が殺到した

バーミキュラ発売後、3~4年経つと、ユーザーの間で「野菜だけでなく、ご飯がおいしく炊ける」と評判が立つようになった。そこで、土方兄弟は家電メーカーの高級電気炊飯器を取り寄せて、バーミキュラで炊いたご飯と比較するブラインドテストを行った。すると全員がバーミキュラに軍配を上げた。

「バーミキュラの力を引き出すのにご飯が最適であることはわかっていたのです。電気炊飯器は保温機能のためにふたも温めないといけませんが、実はこれがご飯の味を落としているのです。かまど炊きのご飯がおいしいのは、釜のふたが外気で冷やされ、釜下部と大きな温度差が生まれて、激しい熱対流が起き、米がむらなく炊き上がるからなのです。それならば、保温用のふたをなくして究極の炊飯器を作ろうということになりました」と智晴は言う。

こうして、バーミキュラを炊飯のために進化させるプロジェクトが始まった。炊飯に限らず、バーミキュラの性能を最大限、引き出す熱源や加熱の仕方は何か。そこから開発は始まった。炎が鍋を包むかまどのような加熱方法を実現するため、底面にハイパワーのヒーターを置き、側面もヒーターで覆い、底面のヒートセンサーが火加減を調整する構造にした。

上部はバーミキュラのふたがむき出しで、保温用のふたはなく、加熱時は本体からわずかにふたが浮き上がり蒸気を逃がす仕組みになっている。加熱終了後は、下部にあるファンが回り、鍋を一気に冷やすため、理想的な蒸らしが可能となる。

3年をかけてこの「バーミキュラ ライスポット」は完成し、2016年11月1日からオンラインショップで先行予約を開始。12月1日から発売された。税別7万9800円という価格にも関わらず、たちまち予約注文が殺到、12月半ばで受注が1万5000台を突破した。年間で出荷6万台を予定している。

ライスポットは実は炊飯専用ではなく、バーミキュラで可能な調理が全てできるだけでなく、バーミキュラにはない機能も持っている。30~95度まで1度刻みで温度設定ができるので、低温調理やレシピ通りの調理が自動的にできるのだ。

「誰でも専門店並みのローストビーフが必ず作れます。残ったご飯をそのままチャーハンにできるし、おいしいと評判です。自分で好きなように調理できる道具にしたかったのです。10年間はモデルチェンジしなくても売れ続けるような完成度の高いロングセラー製品を作っていきたいですね」と智晴。

実はこのライスポットは欧米市場を狙った戦略商品でもある。鋳物ホーロー鍋の本場、ヨーロッパではバーミキュラはル・クルーゼやストウブなどとの比較になってしまう。大量生産なのでEU域内ではこれらはバーミキュラのほぼ半額で売られている。これではいくらバーミキュラの性能がよくても売りづらい。そこで、鋳物ホーロー鍋と競合しないライスポットを投入しようというわけだ。いまのところ、2018年から欧米に進出予定だ。

「私たちはメイドインジャパンのもの作り企業として世界で勝負したい。中小企業でも誇りを持って従業員が働いている。いいものを作れば必ず売れます」と邦裕は力強く語る。

愛知ドビーは日本の中小企業の底力と意地を改めて私たちに教えてくれる。

(文中敬称略)

愛知ドビー株式会社
●代表者:土方邦裕
●創業:1936年
●業種:産業機械部品などの鋳造および機械加工、鋳物ホーロー鍋などの製造・販売
●従業員:160名
●年商:16億円(2015年度)
●本社:愛知県名古屋市
●ホームページ:http://www.a-dobby.co.jp/
(澁谷高晴=撮影)
【関連記事】
下請け中小企業が大勝負! 起死回生のヒット商品 ~バーミキュラ・胡粉ネイル・空気の器 商品開発ストーリー
使い方は客任せ! 「曲がる錫」不思議な器で世界を驚かす
なぜ「3Dプリンター」で鋳造業界を革新できたのか
「1枚の紙を夢の形に!」印刷会社“起死回生”の紙技