ワルが悪用するAIDMA(アイドマ)とは?

最近の詐欺や悪質商法は、“科学的”なセールススキルをもとに消費者心理を読み解いた上で、契約にこぎつける。

今、横行する振り込め詐欺をみても、なりすます人物は、息子だけでなく、会社の上司や弁護士など騙す人間の役割分担を決めて、ターゲットの事情に合わせたストーリーを展開して相手の心を揺さぶりながら、金を騙し取っていることからも、その傾向は明らかだ。

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消費者が具体的な購買行動を起こすまで、どんな心理で推移していくのかを分析したものに、AIDMA(アイドマ)がある。これは、ものを買うまでの5段階の心理状態を表したもので、消費者の注意(Attention)を誘うことから始まり、興味(Interest)を引かせ、欲求(Desire)を持たせて、記憶(Memory)に残させて、契約への行動(Action)へと誘う。

この原理を通してみると、彼らの手口の巧みさがみてとれる。

若者を狙う悪質商法のひとつに、高額な就活セミナーへと誘う就職商法がある。学生を取り巻く就職状況は、以前に比べてだいぶ改善してきたといわれるが、希望する会社へ入るには、いまだハードルが高い状況は続いている。

業者は、そうした就職不安を抱える人たちをターゲットにして、まず「注意を引く」ことから始める。例えば、就職の合同セミナー会場や大手企業の近くで、「就活生へのアンケートです」と着なれていないスーツ姿の学生らに声を掛ける。

そしてアンケートを通じて、就職活動がうまくいっているのか、いないのかといった情報を聞き出す。以前なら、相手の不安が大きいと知ると、すぐに勧誘場所に引っ張っていったものだが、今はそれをせず、電話番号だけを聞いて、一端、本人を帰らせる。この段階では、「注意を引く」(Attention)に止めておくのだ。

次に、さらなる興味(Interest)を与えるための電話をかける。

「先日、アンケートをお願いしたAです。覚えていますでしょうか」

そして現在の就職状況の厳しさなど、本人が身に染みている話をしながら「今後、どうすれば就職がうまくいくのか」を考えさせる。そして、「就職に役立つ、無料の説明会があるので、来てみませんか?」と誘う。「今後の就活に役立つ話が聞けるかもしれない」と、思う就活生の興味を湧き立てるのだ。