野村証券時代から、不動産などへの投資で、着実に資産形成を行ってきた北尾CEO。株式相場の見方から身銭の切り方まで、北尾流投資術がここに初めて明らかにされた。

<strong>北尾吉孝●SBIホールディングスCEO</strong><br>1951年、兵庫県出身。74年慶應義塾大学経済学部卒業、同年野村証券入社。78年英国のケンブリッジ大学経済学部卒業。92年野村証券事業法人三部長、95年ソフトバンク常務取締役、99年ソフトバンク・インベストメント(現SBIホールディングス)社長などを経て、現職のSBIホールディングスのCEOに。30代からニューヨーク、ロンドンにある野村の現地法人に出向するなど、国際業務経験も豊富。最新の経済書は英語の原書で読むことが多い。
北尾吉孝●SBIホールディングスCEO
1951年、兵庫県出身。74年慶應義塾大学経済学部卒業、同年野村証券入社。78年英国のケンブリッジ大学経済学部卒業。92年野村証券事業法人三部長、95年ソフトバンク常務取締役、99年ソフトバンク・インベストメント(現SBIホールディングス)社長などを経て、現職のSBIホールディングスのCEOに。30代からニューヨーク、ロンドンにある野村の現地法人に出向するなど、国際業務経験も豊富。最新の経済書は英語の原書で読むことが多い。

サラリーマンは、ボーナスの額や自分の昇給速度が同期と比べてどうか、非常に気になるものです。しかし、私の場合は、野村証券にいるあいだ、そういうことには全く関心がありませんでした。

孫正義さんに誘われて常務としてソフトバンクに移ったときも同じです。「給与はいったいどのぐらいにすればいいですか?」という孫さんの問いに、私は「現在いる方たちと同じで結構です」と答えました。退職するときも、孫さんの「退職金はいくらにしたらいい?」という問いに、私の返事は「ゼロでいいですよ」でした。

ことほどさように、私は、お金に対しては非常に淡白であることを基本姿勢にしてきました。これまで一度たりとも自分の報酬、金銭的待遇をめぐって自分の側から交渉したり、人と争ったことがありません。「死生命あり。富貴天に在り」と論語にあるように、金持ちになるかどうか、偉くなるか否かは天の配剤だと割り切っているからです。

お金は人を狂わせます。持ったら持ったで、さらに欲が出る。次に、失いたくないという気持ちが強まり、次第に人間を変えてしまいます。そういう例を、いくつも目の当たりにしてきました。ストックオプション、株式の新規公開でいちどきに大きな利益を得た人が、その後、他人に対して傲慢な態度に変わってしまうのを見て、「お金って怖いなあ」と感じたことが何度もありました。

大金はハングリー精神を失わせ、私利私欲は志を曇らせます。諸葛亮孔明の遺言にあるように、「澹泊に非ざれば、以って志を明らかにするなく……」です。