『ワルに学ぶ黒すぎる交渉術』(プレジデント社)が9月中旬に発刊される。詐欺・悪徳商法評論家である多田文明氏が自身の「被害実体験」を交えたワルの手口をリアルにレポートしたもので、読めば、被害を防止する「転ばぬ先の杖」となるだけでなく、ビジネス(営業や上司対策など)に使える。「人の心の動き」を読むためのテクニック集ともなっている。今回は、著者が日進月歩のワルの最新手口を暴く。

賢いワルは「平行移動」でぼろ儲けする

『ワルに学ぶ黒すぎる交渉術』(多田文明著・プレジデント社)現在、アマゾンにて予約受付中

詐欺事件が起きるたびに、よくもまあ、犯罪者らは次々から次へと騙しの手口を考えるものだと思う人もいるだろう。その悪知恵の発想のもとは、どのあたりにあるのだろうか。

最近、目立ってきた詐欺の手口として、自動音声ガイダンスを使うものがある。

ある20代女性は、携帯電話に着信履歴が残っていたので、その番号にかけ直した。すると、自動音声で次のようなガイダンスが流れた。

「有料コンテンツの料金未払いが発生しています」

そんなはずはない……動揺した女性は、つい自動音声に従ってダイヤルを押してしまう。オペレーターの男につながり、お金を早急に支払うように要求された。身に覚えのないものだったが、女性は相手の指示のままに、コンビニへ向かい、航空チケットなどが買えるマルチメディア端末を操作して、約10万円を支払ってしまった。

これは、以前にも紹介した「Y字路を使った詐欺」の手口と同じで、利用料金の確認や支払い方法についてはダイヤル「1」を、利用料金に身に覚えがない方は「2」を、オペレーターと話したい時には、「9」を押すように促す。しかし、いずれの番号を押しても、詐欺犯に電話が通じるようになっている。

このワルの手口にあるのは、「平行移動の発想」である。

これまでは、コンピューターソフトなどを通じて、次々にメールを送り付けて、お金を払わせるパターンが多かった。おそらく皆さんのところにも、迷惑メールが大量に届いて、困った経験があるに違いない。

こうした一方的に送り付ける手法を、メールから電話へとシフトさせてきたのである。これまで1件、1件、手間暇をかけて電話をかけていたものを、コンピューターにリストをインプットさせることで、次々に自動発信の電話ができるようにした。そして電話に出た人のみに、応対すればよいので、実に効率的に騙しが行えるようなったのだ。

一斉に不特定多数の人へアプローチするという図式はそのままに、メール連絡から電話連絡という形に平行移動させることで、メールを頻繁に使う若い世代だけでなく、高齢者たちもターゲットにすることができるようになった。