みんなの党代表の渡辺喜美氏が公認候補の応援で京都に出掛けたときのこと。団体旅行でやってきた中高年女性たちとエスカレーターですれ違った。ひとりが「あっ、渡辺さんだ」と声をあげると次々に手が差し伸べられ「頑張って」とエールを送ってきた。エスカレーター上という場所をわきまえないところでの握手攻めだが、政治も人気商売である。同党の支持率はうなぎ上り。新聞などの世論調査でも参院選比例区の投票先が10%近くにまで急伸している。その背景を渡辺氏は「民主党政権に対するがっかり感。自民党時代とまるっきり変わらないんじゃないかという失望感。かといって自民党にも魅力がない。既存政党から離れた層が支持してくれていると考えている」と分析する。
自民党の「官僚依存」「業界団体依存」体質に対し、民主党は「官僚配慮」に加えて「組合絶対配慮」、そして、自民党の業界団体をオセロゲームで引っくり返して自分たちにつけようとしていると指摘する。「自民党政治のグロテスクなクローンが民主党政治ですよ。だから、民主、自民に代わる『第三極』が必要なんです」。今年になっていくつかの新党が顔を出してきたが「タケノコ新党には負けない」と切り捨てる。政策のひとつが「脱官僚」。つまり、官僚統制、中央集権をやめさせること。
「我々のアジェンダ(政策課題)を高く掲げることによって民主党から離れた人たちの支持を獲得できると考えている。参院選では最大の勢力である無党派層の人たちにあらゆる機会を通じて訴えていくつもりです」
参院選の前哨戦となる地方選でも大善戦している。6月6日投開票の横浜市議選で民主党候補に敗れたものの、神奈川・逗子市議選では公認候補が1、2位を独占。推薦を受けた新人も当選して擁立したすべての候補者が議席を確保した。埼玉・久喜市議選でも公認候補がトップ当選。東京・町田市議選では推薦1人を含む2議席を確保した。「いずれも民主党や自民党への失望感と『みんなの党』の期待感がセットになった現象だと思う」。忠臣蔵の赤穂浪士にちなんで「四十七士作戦」と銘打ち、参院選では全都道府県に候補者を擁立する方針だ。
長野選挙区から立候補する井出庸生氏(32歳)は元NHK記者。祖父、叔父は元自民党衆院議員。「本来ならば自民党からの出馬が自然なのですが、政治をやるうえで一番に律していきたいのはおカネの問題と国会議員の特権廃止。自民党でも民主党でもないみんなの党の可能性に懸けたい」(井出氏)。
渡辺氏は分刻みで全国を東奔西走している。5月中旬の週末、三重に行って候補者の公認を発表。その後、愛知に入り名古屋に立ち寄って数カ所で街頭演説を行い、新幹線でその日のうちに山形に。翌朝は上杉鷹山ゆかりの「松岬神社」に参拝後、社務所で山形の候補者を発表。その足で宮城に向かい仙台で菊地文博氏の記者会見。それから地元の栃木・宇都宮でシンポジウムとパネルディスカッションに出席、栃木の候補者の最終調整をして東京に戻った。「公募候補は無名の人が多いんですが、非常に質がいい。これはホント驚きです。
このままでは、10年もしないうちに日本がギリシャ化するという危機感が伝わったのかもしれません」。
候補には、ジャーナリストの若林亜紀氏、元・タリーズジャパン社長の松田公太氏などが名を連ねている。
趣味は読書。高橋洋一・元内閣参事官などブレーンの著書を読む。父親は故・渡辺美智雄元副総理。
「オヤジを意識するときは困ったときですね。うちのオヤジだったらどう決断するかと考えると自然に答えが出てきます。ミッチー語録を残してくれたので、それを思い返しながら決断をしてきました。その意味では世襲政治家としてラクをさせてもらっているといえるでしょうね。要するに、頭の中に教科書があるっていうことですよ」
参院選では「台風の目」になることは確実。支持率でほかの新党を大きくリードし、同党の動向に強い関心が寄せられている。