トップの専横を完全に封じることはできない
2011年に発覚したオリンパスの損失隠し問題は、絶大な権力を握る経営トップと力のない役員の違いを改めて見せつけた事件でした。似たような事例が2005年に元社長ら3人が逮捕されたカネボウの巨額粉飾決算事件。帆足隆元社長と旧さくら銀行出身の宮原卓元副社長の2人が不正な経理操作の主導だけでなく、経営の実質的権限を握っていたといいます。役員らで構成する「経営会議」や「取締役会」は形骸化していたのです。
オリンパスの菊川剛前会長兼社長も10年間トップの椅子に座り、一連の損失隠しは森久志副社長など一部の役員を除いて、後任の社長も知らされていなかったとされています。損失隠しは、皮肉にも菊川氏が指名したマイケル・ウッドフォード前社長によって暴かれたわけですが、本社の取締役よりも若く、しかも子会社の社長の外国人を社長に据えることができたのも菊川氏が絶大な権力を持っていたからでしょう。
じつは役員会議の形骸化はカネボウやオリンパスに限りません。社長の在任期間が10年に上る中堅電子機器メーカーの人事担当役員はこう指摘します。
「取締役会の議題は、担当役員と社長が事前に擦り合わせたうえで提案され、役員会議は了解が前提のような形です。他の部門の役員は誰も発言しません。逆に異議でも唱えようものなら、後で自分に跳ね返ってくるのではと半ば恐れている感じさえあります」
また、大手精密機器メーカーの元秘書室長は、トップの権力の源泉は「重要情報の独占」にあると言います。
「絶対的権限を持とうとするトップは、役員に個別の担当事業に専念させるように仕向ける。それによって他の事業部の情報を遮断し、トップだけが個別に担当取締役からすべての情報を一手に握るわけです。トップ以上に権限と情報を握っている人はいないわけであり、こういう構造にしておけばいつまでも権力は安泰です」
今、政府と東京証券取引所は経営を監視する「社外取締役」を2人以上選任するように呼びかけています。ただし、どんなに厳しい仕組みを作ったところで、トップの専横を完全に封じることはできません。役員が社長の首をすげ替えるくらいの覚悟を持たなければ、同じような不祥事がどこの会社でも起きる可能性があります。
※本連載は書籍『人事部はここを見ている!』(溝上憲文著)からの抜粋です。