社長は派閥の「根回し」に左右される
春と秋は人事異動の季節です。人事部がこの時期に最も警戒するのは社内派閥の横やりです。大手建材メーカーでは部長以上の人事は役員会の決裁事項ですが、その前に副社長派と専務派の"根回し"が横行するそうです。人事部長はこう言います。
「人事案は最終的に私と人事担当常務と社長の3人で決めています。候補に挙がっている次長職のボスの役員から盛んに『彼をよろしく』と言ってきたり、宴席に誘われることがありますが、この時期は誰とも一切会わないようにしています。常務や私が取り合わなければ、それぞれの派閥トップの専務や副社長が社長や会長を口説きにかかります。一番困るのはそれに社長が左右されることです」
人事部長は候補者の業績などの人事考課はもちろん、部下との関係など過去のあらゆる情報をもとに適任者を推薦します。ところが派閥の長に口説かれた社長にひっくり返されそうになったこともあるそうです。
「社長が推したのは、業績は申し分なかったが、マネジメントに問題があり、過去に部下を何人も潰したことがある人でした。そういうタイプに限って上には逆らわないので社長は知る由もありません。『彼を上に上げれば絶対に問題を起こしますよ』と直言し、撤回させたこともあります」
経営者といえども好きなタイプがいます。人事部がふさわしい人物を推薦しても、最終的に押し切られることもあります。流通業の部長候補は営業所長時代にベテランから若手に至るまで1日の行動をチェックし、成果が出ていないとハッパをかけすぎて、一時は大量の離職者を発生させた"前科"のある人でした。部長昇進は時期尚早と人事部長が進言すると逆ギレされてしまったと言います。
「まだ早いのではと言うと、『彼のような人材がうちには必要なんだ。何より取引先の評判もいいし、業績アップに貢献しているじゃないか。部長の中には彼のような強気の人間などいろんなタイプの人がいたほうがいいんだ。これは私の最終判断だ!』と一蹴されました。そんな考えで組織や人を任せるべきではないのですが、何も言えませんでした」
後日談ですが、その人物を昇進させた結果、部下が離反し、組織がガタガタになったそうです。
※本連載は書籍『人事部はここを見ている!』(溝上憲文著)からの抜粋です。