シャープは3500人程度を募集していた希望退職に3234人の応募があったと発表。応募者は9月30日に退職した。給料が高い50代からの応募が多く、約150億円の固定費削減目標を達成できる見込みで、追加募集はしないという。会社が危機に直面すればコスト削減のリストラが行われる。手厚い転職支援策を用意してもすんなり辞めてくれる社員ばかりではない。『人事部はここを見ている!』(溝上憲文著 プレジデント社)より、「リストラ・解雇」の最新事情をお届けする。

「リストラ執行人」の苦悩とは

人事部の最大の役割は生産性向上のための社員の能力とモチベーションアップであり、できればリストラは避けたいというのが本音です。しかし、経営トップから指示されれば逆らえません。製薬会社の人事部長はその苦衷をこう語ります。

「経営の一翼を担う立場からすれば会社が危機に直面した時には、コスト削減策としてのリストラも必要になります。我々ができることは異動や転籍する人、また退職する人の再就職支援など最大限の配慮を示してやることです」

それでもすんなりと辞めてくれる社員ばかりではありません。“リストラ執行人”として矢面に立たされます。

『人事部はここを見ている!』溝上憲文著(プレジデント社刊)

IT企業の人事課長は「人事部面接の時に年上の部長から『お前のような若造にそんなことを言われる義理はない!』とさんざん暴言を浴びましたし、自宅に嫌がらせの電話がかかってきたこともあります。でもそんなことが辛いとは思いません。辛かったのは人事の使命を果たせずにこんな結果(経営危機)になってしまったことです」

電機メーカーの人事課長は自宅に引越の荷物を送りつけられたと言います。

「休日の朝、チャイムが鳴り、玄関に出ると、玄関前の道路に引越業者のトラック3台が横付けされていました。地方に赴任しているリストラされた社員が、腹いせに私の家に送りつけてきたのです。電話をすると『家族で住むところが決まっていない。工場の社宅に運ぶなり、なんとかしろ』と言う。それ以来、休みの日はまた引越トラックが来るのではと恐怖でした」

人事部もリストラ対象の例外ではありません。金属メーカーの人事課長時代に役員から極秘に45歳以上の社員の希望退職制度の設計実務を命じられた富岡さん(仮名)は、人事部の先輩にかけられた言葉を今も忘れていません。

「お世話になっていた先輩から『富岡、希望退職の締め切りはいつだ。俺も応募するから気にする必要はないぞ』と言われました。他の先輩も全員が潔く辞めていきました。先輩たちは人事マンとしてこういう結果を招いたことの責任を感じていたのです」

じつはリストラ終了後、富岡さんも依願退職。今は別の会社で働いています。

※本連載は書籍『人事部はここを見ている!』(溝上憲文著)からの抜粋です。

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