アポなしでお客さまのところを訪問――。実は営業マン以外でも、アポなし訪問を強いられることがある。そんな経験をもとに話をしてくれたのが、銀座のクラブで“ナンバーワンホステス”を務め、いまでは心理カウンセラーとして活躍している東京中央カウンセリング代表の塚越友子さんだ。

「私は銀座の世界に入る前に化粧品会社の広報の仕事をしたことがあります。エステの担当だったのですが、新しいコースができると、出版社の女性誌の編集者のところに紹介記事の売り込みに回ります。その途中では、アポなしで訪問することもありました。しかし、いきなりお伺いしても受付の方は嫌な顔をします。そこで『改めてアポを取りたいので、どなたがご担当か教えていただけますか』とアポ取り訪問に徹しました」

不思議なもので、そうやって丁寧に切り出すと、「それだったら、私のほうで担当者につないでおきますよ」と応対してもらえることが少なくなかったそうだ。そうなる理由を塚越さんは、心理学の「ポライトネス理論」を使って説明する。依頼場面において、人間はお互いに肯定的な気持ちをキープできるよう、丁寧さを第一にしようとする暗黙の決まり事を持っているという考え方で、丁寧なお願い事に対して、人は自然と丁寧な応対をするものなのだ。

「ですから、きちんと自分のことを名乗りもしないまま、一方的にセールスを始めてしまうようではダメです。相手に不快感を与えるだけで、聞く耳など持ってもらえません。丁寧さが第一なのですが、私の場合はエステの利用券など相手の方のメリットになるお土産も用意しておきました(笑)」