上司の説得は夕方を狙って端的に

では逆に、部下が上司を説得するときは何を心がけるべきか。さきほど第一印象が大事と述べましたが、説得も最初の対応がきわめて重要です。「上司は一度却下したものを再び見直すことはない」と考え、慎重に準備をしてから挑む必要があります。

まず場所と時間を選びます。場所は集中できる空間がベストで、もし反対されることが予想されそうな場合、周囲に人がいない環境を設定する。なぜなら部下や同僚の見ているところで説得されると意見を翻しにくくなるし、場合によっては「恥をかかされた」と後々わだかまりになる可能性もあるからです。

話しかけるタイミングは、十分説明のできる時間帯を見計らいます。人間は1日のリズムを持っているもので、人によっては比較的話を聞いてくれる時間帯があるかもしれません。刑事の体験上、午前中に容疑者が自白することは少なく、自白が多いのは家族で夕食をとる光景を思い出しやすい、夕暮れの頃でした。

さて最善の場所と時間で上司と向き合ったら、これから話す内容を端的に伝えましょう。たとえ言いにくい提案だとしても、必ず結論から説明するべきです。石橋を叩いて渡るような言い方で、なかなか核心に入らない説明が、相手の心に刺さることはありません。

そして説明するとき、手帳やメモを見ないのはイロハのイです。視点をメモに視線を落としていると、内容が頭に入っておらず、自信がないことが一発で伝わります。ただし、こまかい数字は間違えるといけないので、手帳を見て確認してもかまいません。

そこで、こちらの視線はどうするか。刑事時代に容疑者を自供させたいとき、私は両目で相手の片目を見据えていました。しかし、真剣な気持ちを伝えたいとしても、部下が上司をにらみつけるのは失礼で逆効果です。上司のネクタイの結び目のあたり、もしくは唇を見ましょう。上下関係の中では基本的に、上司は部下をじっくり見るもので、部下は見られる側だと意識しておくべきです。

喋りすぎないことも気をつけたいポイントです。説得しているとき、沈黙が訪れるのは怖いものですが、それは決して無意味な時間ではありません。実際、上司があきれて口を閉ざしていることより、案件について考えている場合が多いものです。だから余計な話で間を埋めず、上司からの質問を待つ。慣れてきたら肝心なポイントをわざとはずして説明し、相手の質問を誘う方法もあります。

しかし上司の質問に対して、部下が黙ってしまうことがあります。そこで上司に求めたいのは、話題を変えたりせず、答えを待ってあげることです。容疑者が「私がやりました」と自白する前、沈黙する時間が必ずありました。そのときに話しかけると、言葉を飲み込んでしまって言いたいことを言えなくなります。沈黙を含めて部下の話に傾聴するのは、上司の大事な仕事です。