また、部下は口頭だけではなく、書面でもウソをつこうとするもの。そのため、私は報告書の数字を鵜呑みにしないよう気をつけていました。
たとえば「刑法犯の検挙率は80%」と報告されると、何となく成果があったように感じますが、そこで納得するのはセミプロ。一言で検挙といっても、刑事が捕まえたのか、市民が捕まえたのか、それとも自首してきたかで話は全然違ってきます。企業においても、売り上げや利益を報告された際、何を根拠にした数字なのかを確認し、数字の内容と重みに考えを巡らさなければなりません。
人のウソを見抜くには、観察力が不可欠です。それはおもに経験によって培われますが、相手の生い立ちを知ることは観察力に大きな+αの力をもたらしてくれます。私が刑事だったとき、それこそがもっとも知りたい容疑者の情報でした。特に小学校に入る前の幼少期がわかると、その人の根本的な性格や傾向が理解でき、心理を見抜きやすくなります。
たとえば過保護に育てられた者は、幼稚で孤独で、組織になじまないケースが多い。自己主張が強く、時間にルーズということもあります。逆にきびしくしつけられた者は、上司の顔色をすぐうかがい、従属的になりがちです。一方、放任されて育つと警戒心が強く、劣等感を抱きやすい。
生い立ちは、身上調査などで知る方法もありますが、ひとつのしぐさから推測することも可能です。たとえば着席のタイミング。目上の人がいても気にしないで先に座ってしまう人であれば、人生であまり苦労していないことが読み取れます。
部下の生い立ちを知るのに一番有効な手段は、飲み会でさりげなく話しかけることでしょう。「どこで生まれたんだっけ?」と質問して、嫌がる人はあまりいません。
「○○県××市です」「ああ、あそこは空港が近いからうるさくて大変だったろう」「そうなんですよ。子どもの頃は防音工事ばかりやって……」という会話を続けていく中で、家族構成や家庭環境が浮かび上がってくる。その情報をストックして、後々の観察につなげていくのです。