プレジデント動画シリーズ「リーダーの器」。第9回はアース製薬の川端克宜(かわばた・かつのり)社長です。無料会員登録で動画をご覧いただけます。ぜひご登録ください――。

「泥沼に一輪の花が咲くから、目立つやろ」

20代の終わり、川端克宜さんは会社を辞めようとしていました。営業で数字を出せるようになり、「他社でもやれる」という手応えを感じ始めていたのです。転職を決意し、会社に辞表も提出しました。

最後に、入社時の直属の課長だった吉村さんに、あいさつの電話を入れます。よほどの覚悟だと察したのか、吉村さんは「お前のことだから、分かった」と受け止めてくれたといいます。ところが、電話を切ろうとしたその最後で、こう言われました。

「お前にはライバルがおらん。花畑の中の花は目立たへんけど、泥沼に咲く一輪の花は目立つやろ」

その一言で、川端さんは決意を翻します。「すみません、辞表を下げてくれませんか」。かっこ悪いと思いながらも、会社に残ることを選びました。この選択が、のちにアース製薬の歴史を変えることになります。

社長就任直後、恩人に託した「75億円」

1892年創業のアース製薬は、1969年に経営難で会社更生法を申請し、翌年、大塚製薬に救済された会社です。それから44年にわたって、大塚家が経営を担ってきました。2014年、その大塚家以外から初めて社長に選ばれたのが、当時42歳の川端さんでした。

社長就任はまったく予期していませんでした。前社長の大塚達也氏(現会長)にゴルフの送迎を頼まれ、帰り道にホテルのラウンジへ立ち寄ることになりました。そこでモンブランのケーキセットを前に、突然「お前やってくれよ」と告げられたのです。突然のことで「ハァ?」と返すのがやっと。それが大塚氏には「ハイ」と聞こえたそうです。「もう思考回路が止まりました」と川端さんは振り返ります。

就任直後、すぐに試練がやってきます。1回目の役員会議の議題が、年間純利益の3倍にあたる75億円の「白元」買収でした。経理部門が示した上限は70億円。それに川端さんは独断で5億円を上乗せします。猛反対の中での決断でしたが、フタを開けてみれば上乗せがなければ競り負けていました。そうして買収した白元の再建を、川端さんは吉村さんに託します。20代の自分を引き留めてくれた、恩人です。居酒屋で打診すると、吉村さんはこう答えたといいます。「もう二度とアース製薬には戻らん。リボンを付けて返したる」。そして、その言葉どおり、見事に再建してみせました。一度は辞めかけた男が、自分を救ってくれた人に、最大の仕事で恩を返したのです。