医療論文の事例を分析したことに対する信頼性
『がんが自然に治る生き方』という本が世に出てアメリカでも日本でもベストセラーになったというのは非常に大きなできごとだと思っています。世の中に「私はこんなことをやってがんを治しました」という本は多数あります。それが信頼できないというわけではありませんが、がんは非常に複雑な病気ですので、ある人に効いたことが別の人に効くとは限りません。その点、本書はメディカルジャーナル(医学論文)に掲載されている治癒事例を網羅的に分析・解析してまとめたというところに意味があると思います。
私はいま標準医療と代替医療を効果的に組み合わせて個々の患者さんに最適の医療を提供することを目指す「統合医療」に関わっています。もともとは外科医としてがんを治療していましたが、手術でがんを切除し、抗がん剤など化学療法をやっても再発転移した人に対してはほとんど打つ手がありません。それでも患者さんの「治りたい」という気持ちに医師としてなんとか答えたいと思って模索するなかで、統合医療や心理療法に出合い、2005年から2006年にかけてアリゾナ大学統合医療センターで2年間学びました。
同センターは、統合医療の方針を次のように定めています。
【1】人間の自然治癒力(自発治癒力)Natural healing powerを治療の原点に置く
薬や手術は自然治癒力を高めるための手段と考える。
【2】全人的に患者を診る
身体だけを診るのではなくメンタルなこと、スピリチュアルなこと、そして家庭環境や人間関係、生活の質などを含めたソーシャルウエルネスなども含めて、その人がどういう状況におかれているかを診る。
【3】生活習慣を見直す
対症療法として症状や検査結果を見ていくだけではなくてなぜその病気がおきたのかを考え、生活習慣が原因であればそれを見治す(運動、食べ物、睡眠、ストレス、など)。
【4】医療従事者と患者の信頼性
信頼をベースにしたリレーションシップ、パートナーシップに基づく医療を行う。がんになる前の自分にも向き合う。
この4つは、『がんが自然に治る生き方』の著者がつきとめた「劇的な寛解」に必要とされる9つのファクターにそのまま重なります。つまり、精神面も含めた生き方の見直しが自己治癒力を高めるということです。その9つのファクターのうち7つがメンタルや生き方にかかわることでした。