新種船へ挑戦で「新たな100年」へ

84年2月に引き渡した「泉州丸」、85年4月の「若葉丸」は、LNGの容量12万5000立方メートルの同型船。当然、タンクの設計を担当し、材料となるアルミ合金の仕様を確定、調達先を米国企業に決める。タンクの中にLNGが入れば、上の壁より下の壁により圧力がかかるから、アルミ合金は下のほうを厚くしなくてはいけない。では、どれだけ厚くすればいいか、解析を始めた。

タンクを固定するには、球形の赤道部分で「スカート」と呼ぶ支えをはかせ、船体に接続する。だが、船体は鉄で、アルミ合金とは溶接できない。そこで、接続部に特殊な鋼材を探し出す。ある日本メーカーが独占的に持っている技術で、爆発圧着で鉄とアルミを融合させている。タンクの重さを支えるには、特殊鋼をどう使えばいいか。ここでも、解析が続く。

課題は、まだまだ続く。零下162度で液化した天然ガスが入ったタンクに対し、スカート部は外気に包まれているから、接続部を挟んで温度が急激に変わる。すると、双方に縮みが起き、各所に変位つまりズレをもたらす力がかかる。その力を、接合部で吸収させる必要がある。後輩の担当部分だが、難航していたのでアドバイスを出す。全体最適を考えれば、後輩の課題も共有して当然だ。

「天網恢恢、疎而不失」(天網恢恢、疎にして失わず)――天が張っている網はとても大きく、網目は粗いようにみえるが、何一つ取り残すことはないとの意味で、中国の古典『老子』にある言葉だ。「失わず」を「漏らさず」としても使われ、みる人は必ずみているから、悪行はいずれ報いを受け、善行を重ねていれば必ずいいことがある、と説く。難しい折衝でも厳しい課題でも、常に理に適った選択を示し、良好な結果を生み出す加藤流は、この教えと重なる。

2017年11月、会社は創立100周年になる。「それまでに、新たな100年の礎を築こう」と、全社に呼びかけている。新世紀のキーワードは、「オンリーワン」と「ナンバーワン」。エンジニアリングや機械、海洋開発などの事業部門でもそうだが、まずは造船。一昨年にたすきを渡した田中孝雄社長と、ときどき話しているが、ベクトルは一致している。

LNG船は、超円高に韓国勢の安値攻勢もあって、建造しなくなって久しい。やはり、またつくりたい。いまシェールガスの輸入船の話が出ているし、三井物産がアフリカで手がけているLNGプロジェクトでも出番が期待できる。でも、「オンリーワン」や「ナンバーワン」は、韓国勢や中国勢では手がけられない船種、もっと特異な船で実現を目指す。

9月下旬、ドイツのガス船エンジニアリング会社の買収を発表した。先々のシェールガス船も視野にはあるが、いま活況の小型のエチレン船など、三井造船では手がけてこなかった船種の分野で、独社の設計技術や資材調達のノウハウを活かす。つくるのは、コストが安い韓国勢に発注する。

この市場で、船主に食い込み、新たなアイデアを出していき、ビジネスを確立すれば、日本ではやっている会社はないから「オンリーワン」になる。「新たな100年」の礎の1つにできる。

三井造船会長 加藤泰彦(かとう・やすひこ)
1947年、北海道生まれ。73年早稲田大学大学院理工学研究科機械工学専攻修了、三井造船入社。99年船舶・艦艇事業本部基本設計部長。2001年三井造船ヨーロッパ社長。04年4月ミツイバブコックエナジーCEO。04年6月三井造船取締役、07年社長。13年より現職。
(聞き手=街風隆雄 撮影=門間新弥)
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