「不作為の罪」問い課題解決を進言

いまでも、生々しく覚えている場面がある。2002年暮れ、経営会議が終わると、社長が「みんな残れ。いまから小泉が説明するので、よく聞け」と切り出した。間を置かず、1年以上前から社長と差しで話を重ね、つい数日前に結論を出した経営改革の姿を、役員たちに披露する。経営企画部長で、45歳のときだ。

日本たばこ産業社長 小泉光臣氏

会社は何をすべきかを説き、改革推進本部を立ち上げる話になったところで、社長が「そこまででいい」と止めた。「以上、小泉が話した通りだ」と言い切り、自らが本部長に就くと宣言した。原案には、本部長に副社長の名があった。社長の覚悟のほどを痛感し、身を引き締めた瞬間、「本部の事務局長は小泉、メンバーの人選は小泉に一任する」との声が響く。

数日前、与党が2003年度税制大綱を決め、降ってわいたように、たばこ税の増税が盛り込まれた。1本につき1円弱、20本入り1箱で16円強の大幅な増税で、実施は翌03年7月1日。増税となれば、税込みの小売価格も上げざるを得ない。喫煙本数を減らし、やめる人も出て、収益に響く。

当時、もう1つ、大きな課題を抱えていた。05年4月末で、世界最大のたばこメーカーからライセンスを得て生産していた「マールボロ」の10年単位の契約の、3度目の期限を迎える。もう手放すか、あるいは延長するか。その論議も始まっていた。20年余りをかけ、国内シェアで10%近くまでに育てたブランドだ。失えば当面、500億円の営業利益が消える。増税の影響なども加味すると、減益規模は1000億円にもなる。でも、ライセンス契約の打ち切りを進言した。