全国一律を覆し「前例打破」に挑む

輝きを放つ経営者たちの共通点に、前例踏襲主義の否定がある。古くなった成功体験を手放さず、前例通りに繰り返すだけの経営をしても、やりがいもないし、会社の進歩もない。そう思って、否定すべき過去は否定する「非連続の経営」に踏み出す。

連載でお会いした多くの経営者が、そうした「非連続」に40代前後で挑戦していた。もちろん、代々の経営者が、自分の手がけたことが否定され、変えられはしないかと目を凝らしているから、覚悟も器量もない人には前例を覆せない。そして、多くの部下が「なるほど」「そうだ」と共感しなければ、新たな地平は拓けない。

味の素ゼネラルフーヅ社長 横山敬一氏

2000年秋、福岡県を代表する観光地の大宰府天満宮へ向かって、味の素の「だし」の広告で覆われた私鉄の車両が走った。商品を紹介するのは、熊本県出身の歌手の水前寺清子さん。味の素の九州支社長として、「前例にこだわるな」と指揮した『「ほんだしいりこだし」で食べるみそ汁~九州まるごとおいしさ実感大作戦』の一環で、地域限定のキャンペーン。九州各県のテレビで、水前寺さん夫妻の独自CMも流した。

各地の流通業者と連携し、店頭に地元産の味噌とともに「いりこだし」を並べた。瀬戸内産のイワシを大釜で煮て、粉末を小分けしてある。福岡市で生まれ、子どものころ、母がつくる味噌汁は炒り子の「だし」だった。九州では江戸時代、旧藩ごとに味噌や醤油を造り、食文化には地域差がある。ただ、「だし」の炒り子は共通とも言え、全国でも需要量が高い。そこに、部下たちが目をつけて、キャンペーンを立案した。