前例がない理由を問え

私はもともとが研究畑の人間なので、仮説と検証というプロセスをもとにさまざまな判断を下すことが習慣になっています。企業経営者になった今も同じような考え方で物事を判断するのですが、経営の世界では違った判断基準が存在することを実感します。

「無理だからやめとけ」。昔、よく言われた言葉です。しかし、本当に無理なのだろうかと疑問を持ちながらも、やってみたらできるということが少なくありませんでした。当時は周りから無理だと言われていたのに自分は成し遂げたと、素直に喜んでいましたが、最近は「どうしてできることを無理だと言ったんだろう」と考えるようになりました。

その根拠は何かと聞けば、「前例がないから」という一見もっともな答えが返ってくるのかもしれません。「前例がないから無理だ」という前に、なぜ前例がなかったのかをよく考えなければなりません。

例えば、かつて挑戦しようとしたときの経済環境やテクノロジー事情はどうだったのか。何が理由で実現しなかったのか。どういう仮説でどういう失敗だったのか、それとも、仮説すら立てずにやってできなかったのか。仮説自体に欠陥があったとしたら、別のやり方も可能だったはずです。今は実現できない理由はなくなっているかもしれません。最終的にはその時の事情でやらない選択をしたから前例がないだけなのかもしれません。

過去の誰かが築いた「出来なかったという前例」にいつまでも引きずられることのほうが問題ではないでしょうか。一言に前例がないと言っても、いろんな理由があるはずですから。