前回から前編・中編・後編の3回に分けて、元プロ陸上選手の為末大氏との対談をお送りしている。前回は「見ることの科学」というテーマで、科学や医学の視点から「見る」ことについて2人が語り合った。
中編となる今回は、「見ることの科学」から発展して、「視点の置き方」をめぐる論が交わされる。視点とは、ものごとを観察するときの立場のこと。スポーツにもビジネスにも共通する「視点の置き方」があるという。どのようなものだろうか?
スポーツにもビジネスにも通じる「3カメ」の視点
【窪田】前回は、「見る」ということについて科学的なお話を為末さんとしてきました。今回は、もうすこし心理的な意味も込めて、物事をどのように見るか、つまり「視点の置き方」について、為末さんと話していきたいと思っています。
前回も、為末さんと私の共通点として、「俯瞰的に物事を捉えようとする」といった話をしました。為末さんが俯瞰的に物事を捉えるのは、陸上競技でもやってたことなんですか?
【為末】そうですね。スポーツの世界には「3カメ」っていう視点の種類があるんです。「1カメ」は自分から見た視点。「2カメ」は相手から見た視点で、「3カメ」は、上から見た視点。陸上の場合「2カメ」はあまり言われていませんが。
こうした、自分から以外の感覚をもって、自分のフォームなどを修正できるかというのは、すごく重要な感覚ですね。
【窪田】客観的に自分自身を見るわけですね。
【為末】ええ。自分が見ている世界は自分の視点からのものですが、そうして見ている自分がいることを知っていると、よりいろんなことができるようになるものです。
例えば、走っていてフォームが右に歪んでいると、左に戻そうと思うんですけれど、そのとき「左に戻そう」と思うより、「左ひじを引こう」と思うほうが自然に戻る場合もあるんですね。感覚のスイッチがどこにあるかは「3カメ」をもっている人でないとわからないですね。
【窪田】その「3カメ」の話は、経営をする際にリスクをどうやってとっていくかという、意思決定のときの考え方にも似てると思うんです。
私はリスクを多くとって仕事を進めるほうだと思っています。そこを、「3カメ」的に捉える自分が絶えずモニターしている感覚があるんです。大きなリスクをとっているようで、それをナビゲートしているような感覚が。
こういう視点をもつことは、大変なんですけれどね。
【為末】そうですね。たしかに難しい。