直観に素直でいると、うまくいく

為末 大氏

【窪田】自分自身や物事を客観的に捉えることが重要である一方で、視覚の圧倒的な部分は“認知に上らないレベル”での情報処理なんですね。自分が注意しなければならない最低限のことは知覚しますが、知覚しない情報をもとにアウトプットしなければならない要素がじつは大部分を占めている。つまり、直観が大切だということです。これをどう受け止めていくか。

【為末】そうですね。その事実に対して強固に抵抗しないのが、優れた選手という気がします。

【窪田】見えない部分があることを素直に受け入れる……。

【為末】受け入れる。逆に、説明がつかない直観を信用しない選手は厳しい気がします。「なんかこういう感じがするんだから、たぶんそうなんだろう」と受け入れる選手は、クリエイティブで優れている気がします。

【窪田】その点は、経営もまったく一緒だと思うんです。

直観を重視してクリエイティブに考える人もいれば、分析を重視してアナリティカルに考える人もいる。でも、なにもかも分析しつくさないと気が済まないという人は、クリエイティビティが育たないんですよね。

完全なる説明はできないけれど、「こうなんだ」と抱いた感覚を大切にして意思決定していける人は、アントレプレナーに向いているし、いろいろな人が行けないようなところに到達できる。

【為末】無意識と比べて意識の領域が小さいっていうことを理解していると、直観を信用できるようになれると思うんです。意識の領域が大きいんだと思っている人は、直観で進むことをためらってしまう……。

【窪田】自分が認知できるパラメーターって、すごく限られているんです。認知できる情報だけから結果を導こうとするとうまくいかない。認知されていない重要な情報を取り入れたら全然ちがうほうに結果が導かれるということが見えていないからです。

合理的に考えようとするほど、上手な決断に達しない。それで「ああでもない、こうでもない」といろいろ考えすぎてしまう……。

【為末】人間っておもしろいですね。

【窪田】優秀なアスリートにも、認知しなければならないトリガーのようなものがあると思うんです。そのトリガーを引いたら、あとは体の神経に対してすべて指令が行くというような。でも変な瞬間にトリガーを引いてしまうと、体の一部にしか指令が行かない。

【為末】そうですね。そのトリガーを引くために、必要な情報をすべて得ようとするのでは間に合いません。なので、ある瞬間をぱっと捉えて、「こっちに行くと40%だけれど、こっちに行くと60%だ!」といったことを瞬間的に判断しなければならない。だから、完璧主義者はハイレベルなスポーツには向いていないと思います。

【窪田】経営でも、すべてのことに注力していると結局は散漫になってしまう。でも、意思決定がうまい人は「このトリガーを引くと、あとはこうなる」ということが見えているし、考えることもできる。しかも、人それぞれ、トリガーが若干ちがったりして。

【為末】そうですね。その点、やっぱり「3カメ」の視点が重要だと思うんです。実際に、体の動きを修正したいんだけれど、その人がその動きを生みだすために、肘を引くほうがいいのか、腰を回したほうがいいのかっていうのは人によりちがったりもするので。

自分の体の動きを修正するにはどうしたらよいかが、自分でわかっているっていうのは、動きを制御する上では重要だと思います。