自然の力と科学の英知が世界を開く

ノーベル賞生理学・医学賞の受賞者が決まった。北里大学特別栄誉教授大村智博士とドリュー大学名誉研究フェロー・ウィリアム・C・キャンベル博士にお祝い申し上げます。彼らの研究により大変多くの人々が失明から救われていると知り、その功績に胸が熱くなりました。

大村先生は、アフリカなどの熱帯地方における風土病で、全世界で毎年1800万人が感染し、失明のおそれのあるオンコセルカ症や、足が象のように腫れ上がるリンパ系フィラリア症の特効薬の開発につながった放線菌を発見されました。大学時代に寄生虫学の試験のときに覚えて以来久しぶりに耳にした病名でした。また大村先生が務められている北里研究所では、私もかつて週1回の外来をもたせていただいていたこともあり、大変身近な話に感じられうれしく思いました。

その大村先生の発見をもとに、当時米製薬大手のメルク社で研究者をしていたキャンベル氏が化合物を精製し、寄生虫病に効く薬「イベルメクチン」が開発されたのです。オンコセルカ症はぶゆを、リンパ系フィラリア症は蚊を介して、人が寄生虫に感染することが原因で発症する病気です。このイベルメクチンでこれらの感染症から救われた人は3億人以上と言われています。

私が開発している薬「エミクススタト」も失明を防ぐことが目的ですが、空気中にある酸素や窒素などからできている低分子有機化合物を、ゼロから合成してつくり出しています。大村先生の場合は、自然界の土壌や植物の根などの天然物から採取した微生物が、研究室で培養された後につくり出した化合物を分離して、化学構造を分析するというプロセスで治療薬候補を探索します。ちなみにここでいう化合物は、薬に含まれる成分だと考えてください。