習うけどまねはしない
新しい発見とか発明にたどり着くには、人とは違うことをしなければなりません。私はそう信じています。しかし、これは単に人のまねをしないということではありません。例えば、成功者が語る成功談を鵜呑みにすると、実際にはうまくいかないという失敗に陥ることがあります。ただし、前例をさらなる発展につなげるのであれば、まねすることにも価値がありますし、実際にはまねではなくなります。
戦後のほぼ何もない状態の日本から産業勃興期を迎え現在の先進国になることができたのは、産業の発達段階に見られる「3つのI 」によるものでしょう。私たちの先人が技術を欧米から「imitation」(模倣)し、次に国内で意欲的に「improvement」(改善)を重ね、最終的に日本独自の「innovation」(革新的発明)を生み出してきたからです。
何かを習得するためには、基礎を身につける必要があります。そのために、その分野で自分よりも能力が高い人から習うことは大切なことです。その過程のどこかで、独創性を育てていかなければ新しい発想ができなくなってきますし、自力でやっていかなければ、どこかで超えられない壁にぶちあたります。
基礎を固めるプロセスは、単調で地味な作業を伴うことがありますが、後に、自分の経験値では想像できないくらい大きな可能性を指し示してくれることもあります。たとえ将来的に違う分野に移るとしても、役立てるチャンスはあると信じた者がその恩恵を受けられるのだと思います。
微生物の働きを人類の福祉と健康のために活かすことを実現した大村先生のノーベル賞受賞に、改めて心からのお慶びを申し上げます。
窪田 良(くぼた・りょう)●1966年生まれ。アキュセラ創業者であり、会長、社長兼CEO。医師・医学博士。慶應義塾大学医学部卒業後、同大学院に進学。緑内障の原因遺伝子「ミオシリン」を発見する。その後、臨床医として虎の門病院や慶應病院に勤務ののち、2000年より米国ワシントン大学眼科シニアフェローおよび助教授として勤務。02年にシアトルの自宅地下室にてアキュセラを創業。現在は、慶應義塾大学医学部客員教授や全米アジア研究所 (The National Bureau of Asian Research) の理事、G1ベンチャーのアドバイザリー・ボードなども兼務する。著書として『極めるひとほどあきっぽい』『「なりたい人」になるための41のやり方』がある。Twitterのアカウントは @ryokubota 。 >>アキュセラ・インク http://acucela.jp