親子が一緒に料理すると脳機能や親子関係に変化が表れるという。生活史研究家の阿古真理さんが、脳機能研究で第一人者の川島隆太氏に取材した――。

料理すると子どもの脳が活発に動きだした

「脳トレ」という言葉を定着させた、ニンテンドーDS用ゲームソフト「脳を鍛える大人のDSトレーニング」シリーズの監修者であり、脳機能研究の第一人者の東北大学、川島隆太教授に、家事と脳トレの関係について聞いた。

というのは以前、ミシンの記事を書いた際、アックスヤマザキでシニア向けのミシンについて、川島教授にミシンを使うことが脳トレになる、と保証してもらったと聞いたからだ。しかも、家事はやり方によって、個人の脳トレになるだけにとどまらず、家族の関係まで良好にする可能性があるらしい。

川島隆太先生、一緒に料理をする家族
写真左=本人提供、写真右=iStock.com/kohei_hara
「実験を通じて、調理を介して子どもたちを幸せにすることができると証明されました」と語る川島隆太先生(左)。写真右はイメージです

条件を限定するのが難しいこともあり、家事と脳機能の関係を検証した研究は少ない。しかし長年実験をくり返し、脳の機能を解析してきた川島教授は、過去に2回企業との共同研究で、料理に関する興味深い実験を行っている。そこで検証したのは、親子が一緒に料理することによる脳への影響である。

1つ目は、2004年に大阪ガスと行った。光トポグラフィー(近赤外線計測装置)を小学生の頭につけて血流量を測りながら調理した実験と、小学3~5年生の子どもとその親30組を対象にした実験である。後者は、くじ引きで週1回の料理教室への参加と毎週3回程度の自宅での調理を3カ月続ける17組(そのうち1組が脱落)と、いつも通りに生活する13組に分けて実施した。

光トポグラフィーをつけた実験では、夕食のメニューを考える段階で子どもの脳が動き出し、食材を切る、ガスコンロで炒める、盛り付けるまでずっと盛んに活動していることが分かった。その中でも、切る、炒めるといった危険度が高い作業のときにより左脳の血流が速くなり、活性化していた。

思考や判断を司る前頭前野が活性化する

「料理は面白いことに、さまざまな調理の技術のほぼ何を使っても、前頭葉が働きます。調理すること自体が、脳の健康に非常に良いのです。ガスコンロに火をつけるだけでも脳はワッと働くし、マッチを擦るだけでも働きます。単に、火を使う作業が危険だからというだけでなく、火を使うことを覚えた人類の歴史と関係があるのかもしれません」と川島教授は説明する。

前頭葉は脳の前方に位置し、判断力、創造性、感情のコントロール、運動機能の調整など、日常生活を営む上で欠かせない機能を受け持っている。その中でも最前線に位置する前頭前野は、抽象的思考や計画、判断、感情制御、社会的行動などを総合的に処理し、人間が他の動物と比べ著しく大きい。料理をすると、この前頭前野が活発に働くのである。

実験の際、なぜかハンバーグのたねをこねる際だけは、脳が活性化しなかったという。粘土遊びもそうだが、こねる作業はどちらかといえばやすらぎを与えるのかもしれない。

大阪ガスが2004年8月に発表したレポート「近赤外線計測装置(光トポグラフィ)による脳の活性化の計測実験」は、調理することで、大人ならコミュニケーション能力や創造力の向上が期待でき、子どもには「情操面や抑制力など、情緒の安定に結びつくと推測された」と考察している。