海外ではいま、中国の“ある動き”が静かな衝撃をもって受け止められている。潜水艦や空母ではない。民間船が闇夜に集結し、砂浜に車両を降ろす、一見して軍とは関連のない光景だ。ロイターや英紙はこれを台湾侵攻を想定した新たな上陸能力の訓練と分析する。水面下で進む“影の海軍”の正体に迫る――。
新疆ウイグル自治区設立70周年記念式典に出席した習主席。2025年9月25日、中国北西部の新疆ウイグル自治区にあるウルムチ天山国際空港で、中国の習近平国家主席が、見送りに集まった群衆に手を振っている
写真提供=Xinhua/ABACA/共同通信イメージズ
新疆ウイグル自治区設立70周年記念式典に出席した習主席。2025年9月25日、中国北西部の新疆ウイグル自治区にあるウルムチ天山国際空港で、中国の習近平国家主席が、見送りに集まった群衆に手を振っている

闇夜に集結した12隻の民間船

昨年8月17日の夜、広東省沿岸で異様な光景が目撃された。民間船舶12隻が闇夜に紛れるようにして、軍事基地近くのビーチへ向けて一斉に動き出してゆく。

日没から1時間ほど経った頃、最初の貨物船が広東省捷勝鎮付近のビーチ沖40キロ地点に到着した。その後6時間かけて残りの船も次々と集結し、一斉に岸へ接近していった。

ロイターは船舶の位置情報信号と衛星画像を頼りに動きを追跡し、昨年11月下旬に結果を報じている。それによると12隻の内訳は、車両をそのまま乗り入れて降ろせる「ロールオン・ロールオフ」型のフェリー6隻と、建設資材などの重量物を甲板に載せて運ぶ貨物船6隻だったことが判明した。

雲鴻海運有限公司のFacebook投稿には、各種サイズの貨物船の価格が掲載されている。出典=Facebook
雲鴻海運有限公司のFacebook投稿には、各種サイズの貨物船の価格が掲載されている。出典=Facebook

台湾軍の元参謀総長で、安全保障問題の第一人者として知られる李喜明(リー・シーミン)氏は、この演習の狙いについてロイターに説明。「民間部門の支援を受けた(軍用目的の)小型の水陸両用揚陸艇を大量に開発しようとしているのだろう」と分析する。台湾侵攻を念頭に置いた訓練ではないかと懸念される。

画像に映るうち1隻の貨物船は、甲板に約20台の車両を満載し、ビーチに接岸していた。こうした全長約90メートル級の民間貨物船は、船尾にランプ(傾斜路)を備え、甲板に屋根がなく、喫水(船体が水面下に沈む深さ)が浅い。そのため港湾施設がなくても、積載したさまざまな貨物や車両を直接砂浜に届けられる。

こうした船舶は第二次世界大戦で広く使われた軍用上陸艇に近い機能を持ち、中国では商業輸送に広く使われているため、安価で数も多い。過去の演習で軍用装備を運んだことはあるが、ビーチに直接車両を降ろす様子が確認されたのは今夏が初めてだと、ロイターが取材した7人の海軍専門家は口を揃える。

民間船舶の軍事利用する「影の海軍」

中国は現在、こうした民間船の軍事転用を積極的に進めている。2015年以降、すべての民間造船会社に対し、新造船を有事に軍事転用できるよう設計することを義務付けている。

英紙テレグラフによると、対象となるのは、コンテナ船や、大型車両を積み下ろしできるロールオン・ロールオフ船(ローロー船)など5種類にのぼる。元アメリカ海軍の潜水艦将校で、シンクタンク「新アメリカ安全保障センター」(CNAS)の上級研究員を務めるトム・シュガート氏は同紙に対し、「人民解放軍海軍の揚陸艦だけを見れば、台湾侵攻には到底足りない」と指摘する。そこで、正規の海軍艦艇だけでは足りない輸送力を民間船で補う。これが「影の海軍」とも呼ばれる民間船転用構想の正体だ。

動員体制の整備も着々と進んでいる。中国は2015年以降、「国防動員システム」(NDMS)を強化するため大規模な改革を進めてきた。これは平時から有事への移行に備え、政治・経済・技術・社会といった民間のあらゆる資源を軍事目的に動員できるようにする仕組みだ。