疑わしいと判定された船舶は、大きく2種類に分けられるという。

1つ目は、軍事演習区域に長時間とどまりながら、漁をしている様子がない漁船だ。明らかに漁以外の目的があることを示唆している。

2つ目は、AIS(自動船舶識別装置)を不審な形で操作している船舶である。AISとは、船舶の位置や船名などの識別情報を自動発信する装置で、海上の安全確保のため搭載が国際的に義務づけられている。ところが一部の船舶は、このAISの信号を意図的に消したり、船名を書き換えたりしている。

こうしたAISの操作は、違法漁業で身元を隠す手口として以前から知られていた。だが本件においては、組織的に存在を隠蔽しているとの疑いがある、と同研究所はみる。

フィリピン沿岸警備隊が、2021年4月13日のウィットサン礁事件で海上民兵の船に接近する様子
フィリピン沿岸警備隊が、2021年4月13日のウィットサン礁で海上民兵の船に接近する様子〔写真=Philippine Coast Guard(PCG)/ABS-CBN/PD-PhilippinesGov/Wikimedia Commons
2009年3月8日、公海上で中国漁船の乗組員がグラップルフックを使用し、米海軍補給艦インペッカブルの曳航式音響探知装置を引っ掛けようとしている
2009年3月8日、公海上で中国漁船の乗組員がグラップルフックを使用し、米海軍補給艦インペッカブルの曳航式音響探知装置を引っ掛けようとしている(写真=U.S. Navy photo/PD US Navy/Wikimedia Commons

年に1300回名前を変えた不審船

特定された128隻超の中でも、とりわけ巧妙な隠蔽工作を見せる船舶が1隻ある。

フューチャーズ・ラボは、「オプティクス」と呼ばれる追跡分析ツールを使い、2024年の1年間にわたってこの船舶を追い続けた。浮かび上がったのは、異常としか言いようのない行動パターンだった。

当該船は、船舶ごとに割り当てられる固有の識別番号「MMSI」を11種類も使い分け、船名を年間1300回以上変更していた。位置や航行情報を自動発信する「AIS」と呼ばれる装置の信号を意図的に切っていた回数は、推定998回に達する。出港地の記録は一切残っていない。

この船は台湾の防空識別圏内に一時的に姿を現しては消えるという動きを繰り返していた。2024年1月から8月にかけて断続的に出没しながら、不気味なほど何もない空白期間を挟むなど、まさに神出鬼没だ。1隻の船が識別番号を次々と切り替えているのか、それとも小規模な船団が識別番号を共有して使い回しているのか。CSISは両方の可能性を視野に入れている。

中国軍が10月に実施した軍事演習「連合利剣-2024B」の期間中、この船舶の活動は急激に活発化した。10月14日のAIS検出は25件だったが、翌15日には180件超に跳ね上がっており、演習海域に長時間とどまっていたことがうかがえる。活動の集中度を地図上に可視化する分析手法でも、この船舶の動きは演習の北部区域に集中しており、魚が豊富にとれる漁場にはほとんど近づいていなかった。

漁船を装いながら、実際には軍事演習を支援していたのではないか。データはその可能性を強く物語っている。

封鎖に弱い台湾 エネルギー依存は97%

影の艦隊は兵員の輸送以外にも、台湾の人々の暮らしを締め上げる脅威になるおそれがある。

台湾英文新聞は次のように分析する。民間船舶であれば台湾海峡を往来する商船に容易に紛れ込めるため、中国側は作戦準備の動きを察知されにくくなる。

また、台湾の港湾施設を使わずとも大型装備を運搬でき、上陸作戦の持続力が高まる。万一の侵攻の際、台湾側は港湾施設を自ら破壊することで上陸を防ぐとみられるが、こうした防衛手段が機能しなくなる。