誰も見つけたことがないものはどこに?

動物専用の薬があまり開発されておらずヒト用の薬を使い回していた時代に、大村先生は動物薬をつくろうと研究に着手されました。大村研究室で480種の有機化合物が発見され、そのうちの26種がヒトや動物の薬、研究試薬、農薬として世の中で役立てられているそうです。国内で有機化合物の探索研究を1973年から始められ、 約42年でこれだけの貢献をされてきたということになります。

さて、誰も見つけたことがない微生物はどこにいるのか――。大村先生も研究室のみなさんも、そんな気持ちでいつもビニール袋を持ち歩いていらっしゃるそうです。受賞された日の記者会見でもポケットに入っているとおっしゃって話題になっていました。最初は新しいものを見つけやすくても、発見されたものが増えていくにつれ、次の発見をするのがだんだんと難しくなります。それでも自然界にはまだまだ解明されていないことがありますから、探究心と根気がある限り、これからも新しいものは発見されると考えて間違いはないでしょう。

ここで少し目の働きについてお話をさせてください。視力がある人の脳が認知する情報の80~90パーセントは目から入ってくる情報と言われています。ところが、たとえばアフリカのサバンナで生活をしている人は、米粒よりも小さく見えるほど遠くにいる動物を見つけることができるのに、その環境に慣れていない人が同じ場所から同じところを見ても、視界には入っているにもかかわらず、まったく気がつかないというようなことがあります。普段の生活で認知する必要があるかないか、また想定しているか否かが、情報として脳に認知されるかどうかに影響します。目の前にあるのにその存在に気づかないということは誰にでも日常生活の中であるように、「見える」「見えない」には脳の認知が大きく関係しているのです。

この「脳の認知」はいろいろなことに影響します。自然の中で起こる現象に目を向け新しい発見につなげるには、いつもと違う変化をキャッチしようと意識しなければ見逃してしまうので、何事にも好奇心や興味を持つということは、実はとても大切なことなのです。