失敗は検証の「成果」だ
経営の世界で、この「前例がない」という言い訳がまかり通るのは、失敗事例の共有が少ないという理由があると思います。どんな仮説でどういう結果を得たのか。そしてその結果を、ある時間軸において失敗と判断した場合は、その指標や理由は何なのか。
研究の世界では、常に仮説を立てて検証するプロセスがあります。仮説が否定されて結果としては失敗であっても、それは仮説がまちがっていることを証明した成果と考えます。仮説が証明されれば最高ですが、それだけが成功ではなく、どういう仮説が否定されたかを考えることが未来の方向性を考える上で役に立ち、少しずつ真の成功に近づくのです。Learning from your mistakes.(失敗から学ぶ)ということです。
同僚や友人が、私に、何かをやろうと思うのだけれどという相談に来たときは、自分が想像できる範囲で無理だという答えを導こうとするのではなく、なるべくうまくいく可能性について語り合うことをします。どう考えても成功する可能性が低く、失敗したら失うものが大きすぎると考えた時は、やめたほうがいいと伝えた上で「こういう理由で君に成し遂げられるかどうかはわからない。でも、時間を考えて話をすれば成功の糸口が見えてくるかもしれないからもう少し話をしよう」と言うことを心がけています。これは相談を受けた側の役目だと思うからです。
現状を変えようとすると、思いとどまることがベストであると考えがちな周りの人たちからは相当な反対意見が生まれます。私の場合は、研究者、臨床医、起業家へとキャリアを変え、さらに起業してからもビジネスモデルを変えていますから、たくさんの変化を経験しています。変更を選択する度にやめておいたほうがいいと言われてきたわけです。しかし、貫き通すうちに、目的のためであれば環境や戦略を変えてしまうことをいとわない私の考え方を理解してもらえるようになりました。
私はさまざまな人生の選択を行ってきましたが、後悔はまったくありません。もしあのとき違った選択をしていたら、現状よりいい結果になったとは考えないようにしているからです。実際にはあらゆる選択に関して、よりベターなものもあるでしょうし、よりよくない選択もあったはずなのですが、選択をした以上はそれが自分にとってベストだったと信じて、努力することが大切だと考えています。