川崎重工業と三井造船による経営統合交渉が取り沙汰されるなど、国内造船大手をめぐる再編の動きがにわかに慌ただしさを増してきた。新建造船受注が急激に細り、来年には国内で造る新造船がほぼなくなる「2014年問題」が目前に迫っていることがその大きな背景になっている。造船大手の再編としては、すでにJFEホールディングスとIHIが系列造船子会社の経営統合に踏み切り、新会社「ジャパンマリンユナイテッド(JMU)」が今年1月に発足して間もない。これに追随するように浮上した川重と三井造船の経営統合構想は、「2014年問題」に背中を押され、造船大手が事業存続を懸けた本格的なサバイバル戦に突入したことを意味している。

4月下旬に明らかになった川重と三井造船の経営統合構想は、本体同士が対象となる点で、造船事業子会社の統合にとどまったJFE、IHIのケースとは次元が異なる。造船・重機業界においてそれぞれ売上高規模で第2位、5位にある両社の経営統合が実現すれば、連結売上高は単純合算で約2兆円に迫り、最大手の三菱重工業に次ぐ巨大企業が生まれる。交渉入りの事実について、川重、三井造船はともに表向きは打ち消している。しかし、主要取引銀行との協議は継続しているともされ、その行方に注目が集まる。

事実、川重は4月25日に発表した中期経営計画で、M&A(企業の合併・買収)を軸にした世界的な事業展開を成長戦略に位置づけた。その場で長谷川聡社長は、三井造船との経営統合も「選択肢として排除しているわけではない」と含みを持たせた。三井造船も、翌26日の決算発表記者会見で、川合学常務が「M&Aについてあらゆる可能性を拒むものではない」との見解を示したほどだった。

ただ、現実問題として、造船から航空宇宙、鉄道車両など多くの事業を展開する川重に対し、三井造船は売上高の5割強を占める造船事業への依存度が高く、経営統合による相乗効果が引き出せるかは疑問も残る。一方で、建造量で三井造船は川重を上回り、双方に経営統合への慎重論が根強いともされ、経営統合構想が先行き不透明である点は否めない。

しかし、三井造船は造船市況悪化から国内造船所の減損処理に踏み切ったのにともない、13年3月期に82億円の最終損失と11年ぶりの赤字計上。川重にしても、14年3月期の船舶・海洋部門の営業損益は収支トントンを見通すなど、共に造船事業の抜本的見直しは不可避だ。