関西喜劇の女王、ミヤコ蝶々を正統派美人女優の沢口靖子が演じる。ミスマッチとも思える両者だが沢口靖子は封印してきた関西の女の血と関西弁を解き放ち、新たな役柄に挑戦する。
歴代の東宝専属のスター女優をたどっていくと、美形女優の系譜になるという。そして今、沢口靖子ほど、“東宝の女優”という呼び名にふさわしい女優はいないだろう。
その沢口が主演して、今秋上演される舞台「女ひとり ミヤコ蝶々物語」(マキノノゾミ演出)が注目されている。この舞台は、喜劇女優として関西で絶大な人気を誇り、芸一筋に生きたミヤコ蝶々の波瀾万丈の人生を、笑いと涙で綴る。沢口靖子とミヤコ蝶々。一見ミスマッチとも思える両者の間を、沢口がどんな芝居で埋めていくのか興味深い。
「皆さんがイメージする蝶々さんと私とは、全然かけ離れているのではないかと思います。だって、私自身が意外だったんですから(笑)。お話をいただいたとき、蝶々さんというお名前も大きいですし、ハードルが高くて、とてもとてもお受けできないんじゃないかと……。
母に相談すると開口一番、『あんなに上手な芸人さん、あんたには無理やからやめとき』。さすがに娘のことはよくわかっています(笑)。でも、お話を聞いているうちに、蝶々さんに惹かれてしまいました。あの方は、こと芸に関しては自分に対しても他者に対しても、非情なほど厳しい。でも、ひとたび日向鈴子(ミヤコ蝶々の本名)にもどると、寂しがり屋で、泣き虫で、男性に依存するか弱い女性だったそうです。
その日向鈴子に焦点を当てた女の人生を描いた物語。私などでは、すべての面で蝶々さんの足元にも及びませんが、私にも“大阪の女の血”が流れています。同じ芸に生きる女性として表現できるところがあるかもしれないと思って、無謀にも挑戦してみたくなったんです」