小学生のときから、自作の喜劇で友達をたのしませていたという。だがある日、「自分がおもしろいことをやるより、裏に回って誰かを動かしたほうが、もっと笑わせることができる」と気づく。小学生にして、ショービジネスのなんたるかを理解したのだ。そこで脚本や演出など、裏方に徹するように。「昔から、適材適所に人をはめていくのが好きでしたね」。衣装係や会計係まで友達に割り振っていたというから本格的だ。
人の特性を見抜く能力は現在も健在。その一例が、大河ドラマ『新選組!』の近藤勇役に香取慎吾を抜擢したこと。“慎吾ママ”と新選組局長のギャップに、世間は当初、戸惑ったが、三谷に迷いはなかったらしい。
「新選組は、上下関係ではなく友情で結ばれたチーム。近藤勇を好きな人たちが集まったのだから、近藤には『この人のために何かをしてあげたい』と思わせる魅力があったはず。そう考えたとき、この役には、香取さんしか思い浮かばなかったんです」
三谷は、登場人物を演じる役者を頭に置いて脚本を書く「あて書き」という手法をとる。だが、1年以上かけてドラマを撮るうちに、眠っていた香取の父性が前面に出て、さらに近藤勇らしくなっていったのは、予想外だったという。
佐藤浩市が愛すべき間抜け男をコミカルに演じた『ザ・マジックアワー』など、役者の意外な持ち味を引き出すのも彼の得意とするところ。しかし本人に言わせれば「『新しいものを引き出そう』と思ったわけではない」とか。「もともと彼らはそういう面を持っていたんです。みんながそれを無視してきただけ。僕からすると『どうして決まった役ばかりやらせるのか』と思いますね」。
役者の力を最大限に発揮させる秘訣は、演出家である自分が率先して笑い、役者をノセることだという。それを先日亡くなった市川準監督から学んだ。「JALのCMに僕が出演したとき、監督である市川さんがすごくたのしそうだったんです。それを見て、僕も『もっとがんばって監督を笑わせよう』という気になった。以来、自分でも実践しています」。