必要とされる能力、やらなくてはいけないとわかっていても、日々の仕事に追われて学べない。そんな人に、識者の勉強法を公開。

あと1000時間で英語は習得できる

ビジネス英語は働きながらでも1年間でマスターできる。語学センスなどはまったく要らない。必要なのは強烈で明確な目的意識だけだ。まずは私の苦い体験を明かそう。

私は20代半ばでソフトバンクに転職をした。入社面接の際、孫正義社長から「三木君は英語はできるよね」と聞かれ、思わず「日常会話程度なら」と答えてしまった。

ジャパン・フラッグシップ・プロジェクト社長 三木雄信氏

初めて孫社長の海外出張に同行したときにボロが出た。行き先は、シリコンバレーのヤフー本社。創業者のジェリー・ヤンや初代CEOのティム・クーグルなどそうそうたるメンバーとのミーティングだ。

私は一言もしゃべることができないどころか、彼らの英語を聞き取ることさえできなかった。あまりに黙っているので、ティム・クーグルから「恐るべき男だな!」と声をかけられたのだけは覚えている。孫社長は呆れた表情で私を見ている。

このままではクビになる――。そう覚悟した私は「交渉で負けない英語力を1年間で身につける」という必達目標を自らに課した。孫社長が国内外の交渉相手と大枠の条件で決めた案件を細部まで詰めるのが私の業務。英語で交渉できなければ仕事ができない。会社が待ってくれるのはせいぜい1年間だろう。

では、1年後に英語をマスターするためには毎日何時間の学習をするべきなのか。アメリカ国務省には「Foreign Service Institute」という語学研修機関がある。その分類によると、アメリカ人にとって日本語は難易度が最も高い言語の一つであり、習得までにかかる時間は2200時間とされている。

逆も同じだと考えるべきだろう。

我々日本人は中学校と高校ですでに1000時間ほど英語を学んでいる。受験勉強などを含めると、1200時間は超えているだろう。大卒の社会人の場合、残りの約1000時間を学べば、英語を習得できることになる。

毎日3時間勉強するとして、日曜日は休んだとしても1年間で約1000時間に達する。毎日6時間ならば半年で達成できるが、多忙な社会人には不可能だ。いや、毎日3時間でもよほどの意欲がなければ続かないだろう。かといって、「毎日1時間しか割けないので3年間で習得する」というのもおすすめできない。そんな悠長な学習計画では途中でダレてしまうからだ。

英語は手段であり目的ではない。「自分の担当製品を英語でプレゼンして質問にも応えられるようになる」といった明確な目標の設定が必要だ。1年後に海外で開かれる見本市などへの出席を決め、飛行機チケットを予約してしまおう。自分を追い込むことができる。